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もうタコですらないけど

3吸盤カクチュウ

「たこちゅう」は、1976年に発売されたロッテのチョコレート菓子で、

球体の本体に吸盤が2個というシンプルなデザインが大流行したが、品薄でなかなか入手できなかった。

当時の子供達は、まとまった数を安価に入手し易く、駄菓子屋で買えるパチモンも隔てなく集めて楽しんでいたものであった。

そのため、非常に多くのニセモノ(パチモン)が出回り、9系統、20種類以上が確認されている。

パチモンタコチュウの分類の詳細は、

タコチュウ分類一覧表」を参照されたい。

様々な種類のパチモン

写真の後列は大型のパチモンで、左からH型、H2型、H3型、I型、J型、J4型、J2型、J3型、M型、K型である。

前列はC型、C2型、E型、A型、A2型、D型、B型、P型、B2型、F型、O型、G型、L型である。

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パチモンのタコチュウは、一つの系統に大小のタイプがある例が多い。

H型とC型、I型とD型、J2型とF型などが該当する。

左からH型・C型、I型・D型、J2型・F型、J3型・O型

小型に2タイプがあるJ・B・P型、大中小の3種類があるK・L・G型等、一系統に3種類ある例もある。

左からJ・B・P型、K・L・G型

パチモンタコチュウの系統の詳細は、

タコチュウ派生一覧表」を参照されたい。

パチモンタコチュウは、ガチャガチャに入っていたり、駄菓子屋や玩具店、観光地のお土産屋等において、

ケース入りや、小台紙付き袋入りといった様々な販売形態で売られていた。

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<ケース入りのパチモンタコチュウの例>

たこちゅうセット(K・L・G型)

たこちゅうセット(K・L・G型)

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タコチュー(C2型)

たこちゅう(J・B型)

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<小台紙付き袋入りのパチモンタコチュウの例>

商品名なし(H・C型)

商品名なし(H・C型)

商品名なし(J・P型)

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たこちゅう(J3・O型)

チュチュたこちゃん チュ!(J2・F型)

チュチュたこ(J2・F型)

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UFO消しゴマ(L・G型)

たこチュー(M型)

たこチュー(M型)

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顔のデザインが最も純正に似ているのが、H・C型である。

当時持っていた中で、最も数が多かったのもこのタイプであった。

前列がC型、後列がH型

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顔は純正と同じく彫り込みで、他のパチモンはエンボス(浮き出し)なのと違っている。

成型にあたって、型を彫り込めば模様が作れるエンボスよりも、盛り上げる必要のある浮彫のほうが、より技術的に難易度が高いと思われる。

左がエンボス、右側が彫り込み

左後列から4つ(J型、J3型、M型、G型)、前列5つ(B型、P型、O型、A2型、A型)は、顔がエンボスになっている。

それに比して、後列右側の2個(H型、C型)、前列右側の3個(左から純正最晩期、純正後期太目型、純正後期型)は、

顔のデザインが彫込みで表現されている。

このように彫り込みになっているのは純正であり、パチモンではH・C型だけしか見つかっていない。

それだけ純正のデザインに強い影響を受けていると考えられる。

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顔デザインは、純正の後期型に似ているが、純正が5種類(普通目、ウインク、怒り目、泣き目、眠り目)なのに対し、

普通目、ウインク、怒り目に、泣き目と眠り目が混ざったような、泣き眠り目と名づけたタイプの4種類になっている。

H・C型の顔

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この泣き眠り目は、他のパチモンにも多く採用されており、

泣き眠り目の顔があるものは、H・C型を基に作られたと考えられる。

泣き眠り目の例(後列左からJ型、H型、前列左からA型、A2型、B型、C型、D型)

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H・C型には、柔らかい素材で作られたものも見つかっている。

このタイプをH2型、C2型と命名した。

左からH2型が2個、C2型

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「別冊太陽 子供の遊び集-明治・大正・昭和-」(平凡社1985)に、

このH2型とC2型が台紙に留められた状態を撮影した写真が見つかった。

拡大すると、大台紙にホチキス留めされた、小台紙が入ったビニール袋入りであることがわかる。

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この小台紙は、H・C型にも使われていたことがわかった。

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H型には、顔が口吸盤と脚吸盤の間に付いたエラー品が見つかっている。

顔の種類は今のところ怒り目しか見つかっていない。これをH3型と命名した。

写真中央の大型がH3型

このタイプも、C型と一緒に、同じ小台紙とセットで見つかっていることから、H・C型の一種とすることにした。

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これらのH・C型系は、大台紙に、小台紙入りのビニール袋が12個、ホチキス止めされていた。

この様な大台紙のシートは複数確認されている。

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先に紹介した小型のクリアタイプである、C2型には、ケース入りが見つかっている。

商品名は「タコチュー」で、C2型が計11個、ケースにきっちり入っている。

商品名の印刷されたシールは、このケースのために作られたようで、

コダコが入数と同じ11個描かれている。

これらのことから、「タコチュー」は、人気のあるパチモンタコチュウを売るために、

ケースやシールをわざわざ作ったものであると思われる。

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カラーバリエーションは緑系、青系、黄色、オレンジ、ピンク、赤で、数と色の濃さはばらつきがある。

「タコチュー」のカラーバリエーション例

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H・C型も箱入りのものが見つかっている。

商品名は「キッスだこ」で、紙箱にH型とC型が合計で60個入っている。

箱の蓋には「赤玉(当り)おすきな「タコ」2個とって下さい」と印刷されている。

これは、引き籤といわれる、10円で一回籤を引いて、出た番号や色の商品をもらうタイプの籤で、

「当たり」としてパチモンタコチュウが使われたものと推察される。

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「タコチュー」のプラケース用に専用のシールを作ったり、引き籤の「当たり」にしたり、

純正「たこちゅう」が流行していた時期に、このH・C型のパチタコは、

純正の代用品として、立派に人気を博していたものと考えられる。

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この手の駄玩具は、事故でもない限りは、販売終了時の情報は残りにくい。

H・C型についても詳細は不明で、純正「たこちゅう」の流行の終焉にあわせて、

段々と駄菓子屋の店頭から消えていったと思われる。

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で、ここまでが復習。

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.フリマパトロール隊隊長のぜんまい太郎氏が、またまた衝撃的なブツを送ってくださった。

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先にも紹介したH・C型系の大台紙と、それにホチキス止めされた小台紙入りビニール袋のセットである。

大台紙には、9個の小台紙入り袋が留められている。中身はパチタコH・C型で、C型が4個、H型が2個が入っていた。

右列の2袋はビニール袋が破れて、中身のパチタコが脱落しているものもある。

下段中央も袋が破損しており、C型が1個、H型が2個しか残っていなかった。

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注目すべきは、右上に貼られた袋に、本体が立方体で3個の吸盤がついた、新種が入っていたことである。

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本体が立方体のパチモンタコチュウのパチモンは、吸盤が4個あるものは、

以前、純正やパチタコと一緒に1個だけ入手している。

ネットで検索すると、この立方体の吸盤駄玩具は、たこちゅうのパチモンと認識されていたという記事があり、

「カクチュウ」、「ロボチュウ」等と呼ばれていたらしい。

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今回の立方体のカクチュウは、吸盤が3個しかなく、吸盤4個のものに比べて丁寧な成型になっている。

色はクリアピンク、赤、白(クリーム色)、黄色の4色であり、小台紙入りの袋に各2個の合計8個入っていた。

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3吸盤のクリアピンク色は、似た色がパチモンタコチュウJ・B・P型にもあった。

この色調の素材は他のパチモンタコチュウにはなく、J・B・P型系の特徴になっている。

左からJ型、B型、P型、3吸盤

J・B・P型には、クリアピンク、赤、白、黄色、ピンク、(他に緑、青もある)があり、

色材の混合比の管理が緩いのか、カラーバリエーションがみられる。

左からJ型が3個、B型、B2型

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J型、B型には、顔がないタイプが見つかっており、これらをJ2型、B2型と名付けた。

このうちのB2型には、ピンクのサンプルがあり、4吸盤のカクチュウと色が似ている。

また、同じ系列のP型には、赤とピンクがかった白も見つかっている。

ピンク系は他のパチモンには見られず、J・B・P型の特徴となっている。

純正やパチモンをまとめて入手した中に、4吸盤が見つかった。

それは、ブルーバイオレットともいうべき色でJ・B・P型系と違うものかも知れない。

4吸盤のサンプルが増えないとこの辺は断定的な判断ができないと考える。

4吸盤にカラーバリエーションが見つかった。

純正後期と、パチモンが同一の出品者からまとめて売りに出された際に水色、黒、黄色が入手された。

他にも赤いものもあったようである。

水色や黄色は、色調が純正に近く、先に見つかった肌色や黄色と言ったような奇抜な色だけではなかったことがわかった。

今回の入手品は、純正は全て後期で太目は緑の怒り目が2個とオレンジの眠り目の3個が確認された。

J・B型系や、J2・F型系がまとまって出ており、H・C型が見られないのは珍しいと言える。

まとまって出ることのあまりないD型と、カクチュウが揃って出ており、

この持ち主はガチャに結構ハマったんじゃないかと思われる。

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このようにして観てみると、4吸盤のカクチュウと、今回発見された3吸盤は、J・B・P型系と色調が良く似ていることがわかる。

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そこで、3吸盤が入っていた小台紙を改めて確認したところ、

左下に「Wに顔」のロゴがあることがわかった。

他の小台紙は、H・C型系に見られたもので、良く似ているがロゴマークがない。

H・C型系の小台紙

つまり、H・C型の大台紙に、J・B・P型系を製造している「Wに顔」のロゴのメーカーが作った

3吸盤の小台紙付きが追加されたと考えることができる。

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そこで、改めてこの小台紙を見ると、ホチキスの跡が縦に付いていることが確認できた。

他の小台紙は大きめのホチキスが横向きに付いているのに比べて、

この3吸盤の入った小台紙のみは、小さめのホチキスで付けられていることがわかった。

横向きの大きなホチキスは、製造段階で大台紙に貼付けるのに使う大型のホチキスを使用したことがわかる。

それに比して、3吸盤の小台紙のみは、

一般用の小さなサイズのホチキスを大台紙の左端から横向きに打ち込んで、付け直したものと考えられる。

3吸盤の入った小台紙のホチキス跡

大台紙の裏側から確認すると、横向きの少し大きめのホチキスを剥がした跡の穴と、

サイズの違う小さいホチキスが使われていることが、一層分かりやすく確認することが出来た。

大台紙の裏面のホチキス跡

「Wに顔」のロゴマークが印刷された小台紙の裏面を見てみると、

大きめのホチキスと小さなホチキスの穴の位置が、大台紙の裏面と違っている。

3吸盤の入った小台紙裏面のホチキス跡

このことは、製造時に大台紙にホチキス留めされたH・C型の小台紙が剥ぎ取られて、

他の大台紙にホチキス留めされていた「Wに顔」のロゴマーク入りの3吸盤の入った小台紙を、

小さなホチキスで横から留めて、貼り代えたことを表していると思われる。

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「Wに顔」のロゴを使うメーカーの小台紙には、J・P型でも、今回の3吸盤でも、上部に大きなホチキス跡がある。

H・C型で見られたような、大台紙に小台紙入りの袋をホチキス留めして、店頭に釣り下げる(壁に貼る)といった販売形態で、

これらの「Wに顔」のロゴのメーカーの商品も販売されていたものと思われる。

「Wに顔」のロゴマークが入ったJ・P型の小台紙袋入り

H・C型の小台紙入り袋は、H型2個、C型3個か、C型だけなら7個が入って50円だったと記憶している。

J・P型では、J型2個、P型4個がセットされている。価格はこの手の駄玩具のスタンダードな価格である50円であったと思われる。

「Wに顔」のメーカーの方が1個多く入っていたことから、

「Wに顔」のメーカーの商品である3吸盤カクチュウが8個入りと、1個多いのも理解出来る。

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4吸盤カクチュウと今回見つかった3吸盤カクチュウを比較すると、3吸盤のほうが造形が良くなっている。

4吸盤は本体に引けがあり、接合面も荒い。

吸盤の付け根はほとんどなく、本体に円錐形の吸盤を刺したように見える。

吸盤の凹面は円錐形で中央部に平たい部分がない。

それに比して3吸盤は吸盤の付け根がないことは同じだが、吸盤の中心部には平たい部分がある。

左から4吸盤、3吸盤カクチュウ

4吸盤は全ての吸盤に平たい部分がない。吸盤の接合部(前掲写真の上部の吸盤)はバリが出ている。

立方体の本体から4つの吸盤が出ており、型は四方から吸盤を形成するための凸部で押えたと考えられる。

型から取り出すときに押し出した形跡が見られないことから、

手作業か、それに近い手間をかけて剥離したと思われる。

3吸盤は上部の吸盤がなく、前掲の写真では手前側の吸盤の中央部の平坦なところに、剥離の為に押し出した跡がある。

3吸盤の方が、成型の型の数を減らし、機械の動作で製品を型から剥離させることができる。

その意味で、4吸盤の方が大量生産に向いた形状であると言える。

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3吸盤は、小台紙のロゴから、「Wに顔」のロゴマークの会社が作ったことがわかった。

4吸盤は一つしかなく、ガチャガチャで入手したと聞いたことがあるので、製造メーカーは現時点では不明である。

しかし、ピンク色の素材を使ったものは、先にも指摘したようにB2型しかなく、J型とP型には白と赤がある。

ピンク色は赤と白の色材を混ぜることで作れることから、

J・B・P型を作っていた「Wに顔」のロゴマークの会社は、ピンク色を容易に作り得たものと思われる。

4吸盤は特異な形状であるが、素材色や、型の構成が簡略化されたことから、

3吸盤の祖先に当るのではないかと考える。

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パチモンタコチュウJ・B・P型は、J 型とP型が小台紙入りのビニール袋に、

そしてJ 型とB 型がプラスチックケースに入って見つかっている。.

両方のパッケージにはJ型がそれぞれに入っており、どちらにも、「Wに顔」のロゴマークが入っているため、

同じメーカーの製品であると考えた。会社名は不明である。

左からC・H型、J・P型、J・B型小台紙

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「Wに顔」のロゴマークのメーカーには、上述のようにB型とP型の2種類の純正サイズパチモンタコチュウがある。

これらを比較すると、P型は造形がラフで、吸盤の付け根もほとんど見られず、接合面も雑に見える。

それに比べて、パチモンタコチュウB型は、吸盤の付け根が長くとられており、造形は比較的よくできている。

吸盤は薄いが十分な吸着力を持っている。

当時、4吸盤にP型にあるのと同じような色調の緑色のものを見たことがある。

ガチャガチャで入手されたものであると聞いた。

クリアピンクにしてもピンクにしても、J・B・P型系は3吸盤や4吸盤の色調と似ている。

造形のラフな4吸盤とP型、比較的整った印象の3吸盤とB型という対比から、

これらは、どれも「Wに顔」のロゴの同じメーカーが作ったものではないかと思われる。

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ロッテのたこちゅうは、発売時は大流行したが、その後人気が衰え、

テコ入れとして第二弾のスッポリたこが追加されたことが、文献に出ている。

「ノベルティーズ製作ヒント集 おまけの玩具(おもちゃ)」(浅山守一、昭和58(1983)年、: 自由現代社)より引用

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他のパチモンと違い、顔を彫り込みで作るほどに、ちゃんと作ったパチモンであるH・C型は、

純正たこちゅうの発売時の人気とともに早い段階で売り出され、比較的高価な価格設定の「タコチュー」プラケースや、

引き籤の当たりとしての「キッスだこ」として人気を集めたようだが、

純正たこちゅうの人気の陰りとともに売れ行きも鈍ってきたのではないかと思われる。

比較的高価なケース入りや当りとして優遇されなくなっても、

当初からあったと考えられる大台紙に小台紙袋入りの販売形態は残ったのだと思われる。

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駄菓子屋の狭い店内。壁に掛けられた大台紙は、子供が通るときに接触し、一部の袋は破れたとのだろう。

それでも捌ききれずに、やはり売れ残っていたたこちゅうの関連駄玩具であるカクチュウをまとめてホチキス留めして

在庫一掃を図ったが、結局売り切ることができず、40年もデッドストックとして保管された・・・、と、考えたら、

今回の大台紙は説明できるのではないだろうか。

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ロッテの「たこちゅう」の発売から40年が経ち、パチモンの販売もその時期がもっとも活発であったろうと思われるので、

やはり40年近い年月が過ぎたのに、未だに新種のパチモンが発見される。

さらには、デッドストックのパッケージから製造メーカーについての情報も出てくるのは、驚きであり、非常に興味深いことでもある。

今回の小台紙のロゴの発見も、デッドストック状態でなければなし得なかったことで、

ロゴが発見されなければ、J・B・P型系列と同じメーカーであることはわからなかった。

その点でも今回のサンプルは大変貴重であり、フリマで発見してくださったぜんまい太郎氏の功績は大きいと言わなければならない。

なお、今回見つかった3吸盤のカクチュウは、

当サイトでは、パチモンタコチュウR型と命名することとする。

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オマケコレクターなら、どんなものでもオリジナルに価値を求め、

パチモンなんか、骨董の世界の贋作みたいなもので、全く価値を見い出さないことと思う。

が、あたしんとこみたいな、通っつうか、まぁ、深く賞玩する者からみたら、

オリジナルと付かず離れずに当時の時代を生き抜いたパチモンも、同じように愛でてしまうわけですよ。

純正よりも深く、広い世界が、パチモンタコチュウにはあるんですねぇ。

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わっかるかなぁ、わっかんねぇだろうなぁ。

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