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最盛期の記憶

キッスだこ

「たこちゅう」とは、1976年〜1977年に発売されたロッテ製菓のチョコレート菓子のおまけである。

発売当初は大変な人気を博し、お菓子屋では品切れが出ることも多かったそうである。

手に入らない子供達に向けて、駄玩具製造会社はこぞってパチモン(偽物)を作り、

駄菓子屋、玩具店、お土産屋等で様々に販売した。

しかし、子供の世界の事。すぐに人気にかげりが出て、

新型のスッポリダコを投入するも人気回復することもなく、一年程で市場から消え去った。

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人気が無くなってからは、純正ががちゃがちゃに流用されたのが確認されており、

パチモンにしても、宇宙人役として他のUFO玩具と組み合わせられたり、消ゴムに追加されたり、

引き籤のハズレとして使われたり在庫消化に苦労したものか、色々な方法で販売された。

純正の生産中止が早かったこともあり、パチモンの人気もそう長く続かなかったと思われる。

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このたこちゅうのパチモンにはいくつもの系統があることはわかっていた。

最近になって、ネットを活用出来るようになって、具体的な販売形態や商品名が判明するようになってきた。

パッケージのデザインや商品名から、パチモン同士の影響の度合いを推察することができるようになった。

純正の「たこちゅう」にもっとも似ているものが最初に作られたパチモンであり、

パチモン同士を比べた際、より純正に似ておらず、より他のパチモンの影響を受けたものを

「パチモンのパチモン」(パチモンを元に作られたパチモン)であると考えた。

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その結果として、最も純正に近いパチモンの一つであろうと考えられるのが、

パチモンタコチュウC型・H型というタイプである。

、前列がC型、後列がH型

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純正のロッテの「たこちゅう」には、純正前期と命名した水に浮かぶ素材でできたものと、

純正後期と命名した水に沈む素材で出来たものがある。

顔の種類は、普通目、ウインク、怒り目、泣き目、眠り目の5種類であった。

純正たこちゅう

また、製造工場の違いか、純正にはもう一つ、目のデザインが太いものも見つかっている。

これも水に浮く素材と、水に沈む素材のものが見つかっている。これを純正の太目系と称することにしている。

純正たこちゅう(太目)

太目系も顔の種類は、普通目、ウインク、怒り目、泣き目、眠り目の5種類であり、

当初発売された頃の純正の顔の標準的な種類であると考えられる。

注目すべきは泣き目(右から2番目)と眠り目(右側)の2種類の顔である。

泣き目は瞳が向って左側を向いており、目を横切るラインが中央から左右に下がっている。

眠り目は瞳が中央で半眼になっており、目を横切るラインは中央部にあり、泣き目に比べて両端が下がっていない。

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たこちゅうの最も流行していたのがこの5種類の顔を持つタイプが出ていた頃であったと思われる。

その後、販売が落ちてきたためか、新型のスッポリタイプをついか投入すると同時に、

普通のたこちゅうの顔のデザインも変更された。

それが、最晩期型と命名したタイプである。

純正たこちゅう(最晩期型)

目は口の付け根に近く下がっており、上記の2タイプと比較すると彫が浅く目も全体的に小さくなっている。

最大の特長は、眠り目が省略され、4種類になったことである。

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泣き目と眠り目を比較してみるとそれぞれの違いが良くわかる。

左から最晩期型泣き目、太目タイプ泣き目、眠り目、前期泣き目、眠り目

純正には、明らかに初期(前期・後期の普通タイプと太目タイプ)には、泣き目と眠り目の区別があった。

最晩期になるにあたって、眠り目が省略されたことがわかる。

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パチモンにも、目を横切る線の入ったデザインが見られる。

メーカーロゴから多くの製菓会社のおまけのパチモンを作っていたことがわかった、

マルコー産業製のパチタコと思われる、K型(大型)、L型(中型)に泣き目と眠り目と明らかにわかるものがあった。

下段左からK型眠り目、L型泣き目

左からK型眠り目、L型泣き目

瞳の位置は下寄りであまり変化がないが線が水平のものと、両脇が下がったものの2種類があり、

純正の泣き目と眠り目を模したものと思われる。

目はエンボスで表されており、純正の彫込みとは違っている。

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もう一つ、こちらは泣き目と眠り目が一緒になってしまっているようなパターンが見られる。

左からH型、C型、J型、B型、D型、A型の泣き眠り目

目を横切る線は泣き目のように両端が下がっているが、位置は眠り目に似て中間より下にあり、瞳の表現は見られない。

つまり、泣き目と眠り目の両方の性質を併せ持つタイプと言える。

このタイプを「泣き眠り目」と称することとした。

泣き眠り目には上掲の写真のように6種類がある。

このうち、H型とC型、J型とB型同じ系列であり、D型はI型と称する大型のタイプと同じ系列であると思われる。

A型は吸盤の形が違う2タイプに泣き眠り目がある(A型とA2型)事が確認されている。

大きなH型、J型と、I型は、どれもほぼ同じ大きさであり、K・L型とは大きさが異なっている。

左からH型、J型、I型、K型、L型

これらのうち、H型・C型は純正と非常によく似た顔を持ち、

種類は普通目、ウインク、怒り目、泣き眠り目と純正とほぼ同じラインナップである。

他のものは、J型・B型は泣き眠り目と普通目、D型・I型はウインクと泣き眠り目、

A型系は普通目、ウインク、泣き眠り目と4種類が揃っていない。

後列がH型、前列がC型

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なき目泣き目と眠り目に注目してパチモンを検討すると、先に述べた両者の区別の有るK・L(・G)型と、

泣き眠り目をつくり出したH・C型が純正に近い系統であると思われる。

しかし、泣き目と眠り目の区別の有無と、大サイズの型の寸法が違うことから、

K・L(・G)型とH・C型は、純正たこちゅうの初期にパチモンとして作られたが、

両者は全く違う系列であることがわかる。

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と、ここまでがパチタコ研究の初歩の初歩である。

H・C型が、非常に早い段階で純正を元に作られたパチモンであることがわかったことと思う。

このH・C型は、パチモン研究に多くの影響を与えたタイプである。

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パチモンタコチュウの研究をはじめた当初、印刷物にパチタコを見つけた最初の例もこのH・C型であった。

「別冊太陽 子供の遊び集-明治・大正・昭和-」(平凡社1985)というムック本に掲載された

「東京・台東区立下町風俗資料館内に復元されている関東大震災前の駄菓子屋の店先。

置かれているのは現代でも観られる駄菓子、おもちゃの数々」という写真であった。

写真に写っていたものと思われるクリアタイプが小台紙と一緒に見つかった。

このクリアタイプを、C2型、H2型っと名付けた。

左からH2型(2個)、C2型

このクリアバージョンと、写真に写っていた台紙と同じものを使った、H・C型も見つかった。

H・C型にも同じデザインの台紙が使われていたことから、同じ系列のバリエーションであることがわかった。

この小台紙と一緒に、顔の位置が間違っているエラー品も見つかった。

小台紙は、他のH・C型と一緒に見つかったものと同じであったことから、同系列のものと考え、

目のつけ所が間違ったH型を、H3型と命名することにした。

他にも、小型のC型のみが7個入ったバージョンも発見された。

この系列が様々な販売形態でたびたび作られていたことがわかってきた。

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この系列では、プラケース入りの、販売価格を比較的高く設定した商品も見つかった。

商品名は「タコチュー」。11個のクリアタイプ(H2型)が入っている。

タイトルイラストは純正のパッケージに似ており、イラストもこの商品のために新調されたものらしく、

11個のタコチュウが鉢巻をした大きなタコと供に描かれている。

このようなケース入りは単価も高く、観光地のお土産屋や玩具店も販路に加えられていたと思われる。

パチモンがこのようなケースで広く高額に販売されていたことは、当時の人気を象徴的に表す証拠であると思わる。

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H・C型と共に、純正に近いパチモンであるとしたK・L(・G)型にもケース入りがある。

商品名は「たこちゅうセット」。

一緒にピコタンの大型中空パチモンが入っている。

シールのイラストはこのために新調されたものと思われ、ピコタンに付いての言及はない。

ダブついてきたピコタンのパチモンを在庫放出で交ぜ混んだ可能性がある。

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ケース入りのパチモンタコチュウには、J型・B型が入った「たこちゅう」という商品名のものも見つかっている。

このJ型・B型は、H・C型と同じ泣き眠り目があるが、顔が彫り込み出なくエンボスになり、

顔の種類が普通目と泣き眠り目しかないことからH・C型からの派生と思われる。

このケースに有る「Wに顔」のロゴが入った、H・C型の小台紙に酷似したものが見つかった。

左側が「Wに顔」のある台紙、右側がC・H型の小台紙

中に入っていたのは、J型と、普通目しかない小型の新型パチタコであった。

これによって、「Wに顔」のロゴの有るメーカーは、大型のJ型と、小型のB型とP型。

小型の2種のうち、今の所P型には普通目しかなく顔の種類が減った(つまり、純正から遠ざかった)ことがわかる。

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これらのプラケース入りは、入り数も多く、販売価格も高額であったと思われる。

販売価格から考えると、駄菓子屋の他にも玩具店や観光地のお土産屋などでも売られていたと考えて良いと思う。

このような高額なセットが販売されていたと言うことは、

親や祖父母といった購買層までも巻き込んだたこちゅうブームの存在を伺わせるものであると言える。

タコチュウも一時は、「これさえ買ってやれば、間違いなく喜ばれる」と思わせる人気があったからこそ、

子供には買えない高額セットが大人向けに売られていたと言うことが考えられる。

泣き目・眠り目の区別の有るK・L・G型系、

顔が彫り込みで4種類そろったC・H型系、

そのC・H型と似た泣き眠り目があり、パッケージも良く似ているB・J(・P)型系といった、

純正からデザイン的に近く、初期からあったと思われるパチモンで、ケース販売が見られるということは、

販売開始から一年程度、スッポリダコが投入される前の、「たこちゅうの黄金期」の存在を推測させる。

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・・・と、ここまでが前置きであり、パチモンタコチュウに見るたこちゅうの最盛期の人気をしのんでみた。

この最盛期の記憶の断片を入手したので御紹介しよう。

商品名は「キッスだこ」。

箱にビニール袋入りのC型とH型が入っている。

反体面にも商品名が入っている。

蓋の中央部分は四角く切り抜かれており、ここからタコを取り出したものであろう。

イラストは鉢巻を結んだタコで、腕をあげている。

扇子こそ持っていないが、このポーズは純正パッケージ以来のパチモン等にも良く見られるものである。

左側のたこのイラスト

右側のタコはウインクしている。

左側のたこのイラスト

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このサンプルで最も注目すべき点は、箱の上部に書かれた一文である。

「赤玉(当り)おすきな「タコ」2個とって下さい」とある。

この一文からわかることは何か?!

「タコ」が当りだったのである!

一番のアタリだったかはわからないが、少なくとも以前紹介した、引き籤のハズレとして流用されたB型とはちがい、

「タコ」を取るためにこの籤を引いた子供がいたのである!

一回の単価をいくらと設定したのかは不明であるが、この手の籤は比較的高額な設定で、

アタリとハズレの差が大きいものと相場が決まっていたので、

「タコ」に釣られて高いカネを払った子供がいたことの証拠である。

某クションで入手したのであるが、出品者の方からは以下のような情報をいただいた。

・キッスだこは籤の当りの部分であった。
・他にハズレの細かな玩具があったが、保存状態が悪かったので捨てた。
・籤は台紙ではなく、箱のタイプだった。

この記述からも、引き籤と言われるタイプの、縦長の薄い箱に番号のついたマスが切ってあり、

籤を引いて、番号に対応する玩具を受け取る形のものであったと思われる。

パチモンタコチュウの入った引き籤の例

この例の場合、タコチュウ(B型)は41番〜60番。ハズレの下から2つ目であった。

今回見つかった「キッスだこ」は、H型が黒2個、緑4個、黄色6個、赤6個、計18個。

C型は黒10個、緑5個、黄色12個、赤15個、計42個入っていた。

H・C型が合計で60個。一回で好きな「タコ」を2個取れるので、30回分になる。

・・・希少性ってことでは、結構当り易かったと言うことかも知れないが・・・。

同じ出品者の方が、また「キッスだこ」を出品した。

一回は落札できなかったが、もうひと箱を入手することができた。

入り数はH型が黒5個、緑3個、黄色4個、赤6個、計18個。

C型は黒2個、緑11個、黄色16個、赤13個、計42個の合計60個であった。

色数は4色で、合計数も同じだが、色の数的なわりあいは違っており、

合計数だけ決めて適当に封入したと考えられる。

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もう10年以上前であるが、巨大掲示板だったか、何かの玩具関係の掲示板であったか、

「たこちゅうの大きいのは、当りであった。」とか、

「籤で当ると大きいのをもらえた」と言う記述があった。

C・H型の小台紙付き袋入りを駄菓子屋で見たことがあったため、

これらの記述を勘違いではないかと思っていた。

しかし、確かに「キッスだこ」に於いては、当って、わざわざ大きいのを選ばないと入手できなかったことがわかり、

ずっとひっかかっていたこれらの掲示板の記述が正しかったことを確かめることが出来た。

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たこちゅうの生みの親であるたこちゅうの生みの親である浅山守一が、

「ノベルティーズ製作ヒント集 おまけの玩具(おもちゃ)」に以下の様に書いているように、

たこちゅうの最盛期は短かったようで有る。

短かった最盛期を過ぎてからは、他の駄玩具と抱合せられたり、ハズレとして引き籤に入れられたり、

スッポリダコと一緒に出回るようになった最晩期型に至っては、純正ががちゃがちゃに流用されたらしいサンプルすら見つかった。

たこちゅうの販売期間は短く、人気のあった時期はさらに短かったことがわかってきていたところで、

前述のプラケース入りや、今回の当りとしての引き籤の商品といった、

たこちゅう人気の最盛期の記憶とも言える遺物をまとめることができた。

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ロッテの社史にすら載らない泡沫ヒット商品の、それもパチモンである。

しかし、そのパチモンにも、一瞬ではあったが、輝いた時代があったのである。

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その一瞬の輝きを、遺物を集め、多方面から分析する。

誰にでもできることではなく、誰もやろうと思わないことである。

では、なぜ、そんなことをし続けるのか?

・・・・・・さぁ?・・・・・・

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