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百見は一物に如かず

パチモンタコチュウの販売形態 part.2

「たこちゅう」は、ロッテのチョコレート菓子のオマケであった。

直径1センチの球状の胴体と2個の吸盤が、単純ではあるがイマジネーションを刺激したのか、

当時は結構流行っていたように思う。

そのことは、多種多様なパチモン(偽物)が出現したことでもわかる。

販売期間は長くなく、1年半前後だと思われ、大ヒット商品と言えるほどではなかった。

あまりに多くの種類のパチモンが存在するため、

なぜたこちゅうやピコタンにはパチモンが多く出たのかという理由は

いまのところ不明であるが、それは別の機会に考察したい。

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「たこちゅう」が文献で紹介されたことは、今のところ無いようである。

ましてやパチモンの考証はなされていないといわざるを得ない。

唯一、タコチュウのパチモンが文献に載っているのは、

「別冊太陽 子供の遊び集-明治・大正・昭和-」(平凡社1985)の

「東京・台東区立下町風俗資料館内に復元されている関東大震災前の駄菓子屋の店先。

置かれているのは現代でも観られる駄菓子、おもちゃの数々」という写真に、

たまたま写っているのが見つかっただけである。

「別冊太陽 子供の遊び集-明治・大正・昭和-」(平凡社1985)

この白い矢印の部分を拡大したのが下の写真である。

タコチュウの絵柄の台紙に、クリア系のタコチュウが大小2個ずつの4個入っているのがわかる。

色はオレンジ、黄色、赤、緑、黒の5色である。

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のちに、この写真に写った小台紙と、クリアなタコチュウを発見した。

クリア系のパチモンと小台紙

小台紙は明らかに上掲の写真に写ったものと同じである。

カラーがオレンジ、黄色、赤であることも一緒である。

左がクリア、右がH型・C型

顔はH型(大きいサイズ)・C型(小さいサイズ)と全く同じであった。

当初、クリアの大型で赤が写真に写っていたことから、I型かと思われたが、

I型は、D型と共にクリアの赤と青、クリアでない黄色の3色しかない可能性が高まり、写真に写っていたパチモンの種類は不明であった。

この発見によって、上掲の写真に写っていたパチモンがH型・C型系であることがわかった。

しかし、このクリアなH型・C型は、今迄あったH型と形状が若干違っていることが、両者の比較からわかった。

顔の彫りはH型と同じであるが、口と足の長さが違っている。

(このクリアなH型・C型をH2型・C2型と称することにする。)

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さらに、このH型系列で、顔の位置が口と足の間になってしまったエラー品を発見した。

左からH型、エラー品、H2型

これは黄色の怒り目が一個発見されただけだが、形状的な特徴と素材はH2型に近いが、色はH型に近い。

怒り目の彫刻はどれも酷似していて、同じ型から作られたと考えられる。

左からH型、エラー品、H2型

この顔の位置が違っているエラー品から、タコチュウの型の構成を以下の図のように考えた。

この型を作るとき、顔の部分のみの球状の凹型を前面上部に宛てがって、顔を作ることが考えられた。

(このエラー品は顔の球状の型を上下反対にセットしてしまったために生まれたと考えられる)

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この顔の部分の型の存在は、顔が全く同じで吸盤の形状の違う、パチモンA型とA2型からも推測された。

左がA型、右がA2型

泣き眠り目の左右の目の棒の傾きまでそっくりなのに、吸盤のサイズと深さが違っている。

パチモンタコチュウの製造用の型は見つかっていないが、

他のプラスチック玩具の型が某クションなどに出てくるのを見ると、金属製で、耐久性にも優れているようにみえる。

それなのに、なぜ、同じ顔なのに吸盤部分の形状が違うものが存在するのかはわからない。

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で、ここからが、本題なのであるが、

先に紹介した「別冊太陽 子供の遊び集-明治・大正・昭和-」(平凡社1985)の写真に写っていた、

タコチュウの台紙売りの現物を発見することができた。

タコの絵の描かれたオリジナル台紙に、小台紙ビニール袋入りのタコチュウが5個入っている。

前掲の写真には一袋に4個入っているように見える。

左側の写真に今回発見された台紙を載せてみたもの。

下町風俗資料館の開館は1980年。ということはこのパチタコも1970年代後半に5個入りで発売されてから、

1970年代末から1980年代にかけて、一袋の内容を減らしながら売られていたとも考えられる。

上掲の「別冊太陽 子供の遊び集-明治・大正・昭和-」の写真の台紙は9袋がついているが、今回発見のものより天地寸法が小さいようなので、

展示の関係か、下部を切断したのではないかと考えられる。

しかし、上掲の写真をよくみると、台紙には赤い枠線があるように見える。

今回の台紙は枠線が青なので、12打用の台紙と一回り小さい9袋用の台紙の2種類があったとも考えられるが可能性は低い。

台紙にはメーカー名や数量は記されていない。

裏面に値段を表すと思われる数字がかかれているが、この手の玩具は一袋50円だった記憶があるので、

この数字は、不良在庫として残ったあと、この台紙ごと安売りされた時の価格である可能性もある。

上掲の写真には、一袋に大小2こずつが入っているが、この台紙では5個一袋となっているので、

高い値段がつけられた可能性もあるが、150円は当時の感覚としては高すぎるのではないかと思われる。

以前、日暮里の駄菓子問屋街で駄玩具が残っていないか調査したことがあるが、

業者の人は、「たこちゅう」という商品名では覚えていなかった。

写真を見せると「ああ、吸盤ね」と言っていたのは、この台紙の駄玩具のように

明確な商品名が書かれていないものを扱っていたとも考えられる。

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中心に扇子を持ったタコが描かれ、周りに10個のタコチュウと、「およげ!たいやきくん」を思わせる魚が描かれている。

ネットで検索したところ、「およげ!たいやきくん」は1975年12月25日発売とあり、たこちゅうの発売時期と重なっている。

蛸という海の生物と、ちょうど人気のたいやきくんを一緒の画面に入れてしまった物であると思われる。

描かれたタコチュウは、怒り目、普通目、眠り目、両目つぶりまつ毛付き、両目あきまつ毛付き、眠り目まつ毛付きの6種類が確認された。

純正にもH型・C型にもある、ウインクが描かれていないことは、注目に値すると思われる。

両目つぶりまつ毛付きにはリボンが描かれている。すくなくとも純正タコチュウの後期まではこのまつ毛の表現はなかった。

しかし、純正の最後期に出現した、いわゆるスッポリダコには、この両目つぶりまつ毛付きリボンタイプがある。

スッポリのリボンタイプは目が笑っていて、このイラストとは上下が逆であることから、

このイラストがスッポリのリボンタイプを真似たものと断定するのは困難であり、類似性を指摘するだけに留めておきたい。

(スッポリダコのリボンタイプについては純製新型の分類を参照されたい)

まつ毛のあるものはこのタコチュウ駄玩具が、男女両方に向けて作られたものであることを示すと考えられる。

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このイラストには眠り目(目の中央を直線が分断し、直線の下部中央に黒目が描かれている)があるが、

H型を含め、多くのパチモンには「泣き眠り目」と仮称する、瞳の省略されたものが多く、

泣き目と眠り目の区別がなされているパチモンはマルコー産業製と思われるK型・L型のみである。

後列左から純正太目眠り目、前・後期眠り目、K型眠り目、L型眠り目
前列左から純正太目泣き目、前・後期泣き目、最後期泣き目、L型泣き目

泣き眠り目の例
後列左からH2型、H型、J型
前列左からC型、A型、A2型、D型、B型

このように見るとイラストの段階まではあった、眠り目の瞳が、顔の型がつくられる段階で省略されたことがわかる。

それぞれのパチモンの顔の種類をまとめると以下の表のようになる。

C型 普通目、怒り目、ウインク、泣き眠り目(彫り込み)
H型(C型大) 普通目、怒り目、ウインク、泣き眠り目(彫り込み)
B型 普通目、泣き眠り目(エンボス)
J型(B型大) 普通目、泣き眠り目(エンボス)
A型 泣き眠り目(エンボス)
A2型 普通目、泣き眠り目(エンボス)
D型 泣き眠り目(エンボス)

C型・H型は4種類と多く、純正と同じ彫り込みで顔が作られている。

それに比して、他のパチモンは顔の種類が少なく、顔はエンボスで表されている。

このことから、C型・H型の系列が、純正に近い派生系である可能性が高い。

泣き目・眠り目の区別はあるがエンボスで表された顔を持つK型・L型は、

C型・H型の系列とは、別のグループである可能性が高いと思われる。

このC型・H型のパチモンの台紙に眠り目のイラストがあったということは、

この系統が他のパチモンに比べて、分類学的に純正により近い位置を占めることの証左であるということができる。

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中身を確認してみた。

それぞれの袋には大(H型)2個、小(C型)3個が入っている。

色は黒、緑、青、黄色、赤の5種類で、顔はそれぞれ普通目、ウインク、怒り目、泣き眠り目の4種が確認できた。

形態的な特徴はH型・C型と全く同じであることがわかった。

素材的には小型のものは、C型と目立った違いはないが、

大型のものは、H型よりも、H3型により近い、柔らかめの感触がある。

左が今回の発見されたもの、右がH型

顔も怒り目でH型、H2型、H3型と同じことが確認された。

クリア系素材のH2型、C2型と一緒に見つかった小台紙と同じものに、

H型が入っていたことから、これらのH型・C型系列が同じメーカーの製品である可能性が高まった。

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色は今迄あったH型・C型と同じ5色であるが、青が若干薄かった。

左からC型、今回みつかったH型

H型の青はいままで一個しかなかったため、色の濃淡は比較できなかったが、

C型のほうは、以前から保存状態だけでない色のバリエーションが見つかっていた。

今回の青は特に色が薄かった。

左から今回みつかったC型、今迄あるC型のバリエーション

C型は緑色にもバリエーションが確認されている。

C型のバリエーション

この緑色の薄いものは「別冊太陽 子供の遊び集-明治・大正・昭和-」にあった、クリア系の緑色と、色調が似ている。

ピコタンのパチモンでも、素材の調合による色のバリエーションが見られるが、タコチュウでも素材の調合で微妙な変化がでてしまったと思われる。

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以上のことから、C型・H型系のパチモンタコチュウは、同じメーカーの製品で、

ロットによる素材の調合による色の変化や、顔の部分を流用しつつも型を何度も作ったことによる形状的な差異があることがわかった。

高価であったと思われる金型を、なぜ同一メーカーが何度も作ったのかは依然として不明であるが、

どれもが同じメーカーである可能性が非常に高まったことにより、

今後、なんらかのヒントに出会えるのではないかと期待される。

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だからどうした?って言われても困るんですけどぉ。

そういえば、中学生になってから、憧れのあーたらちゃんから、タコチュウをC型・H型各2個ずつもらったことがあったんだけどさぁ。

タコチュウの袋入りパチって、5個ずつ入ってるものって認識があったもんで、

あー、こいつ小さいの一個どっかに無くしたんだなぁ・・・、って思ってたんだけど、

「別冊太陽 子供の遊び集-明治・大正・昭和-」の写真には各2個ずつのセットが写っていて、

今回の発見でH型とクリアなH2型が同じメーカーだったってことがわかったので、

もしかすると、H型でも大小2個ずつで売られてたことがあるかもしれないことがわかったわけで。

そうすると、あいつ、別に無くしたわけじゃなかったんだなぁ・・・って。

もう20年以上会ってないので、今会ってもわかんないと思うけど、

もらったタコチュウがどれかははっきりわかってるんだけどねぇ。

いや、別に。だからなんだって言われても、困るんだけどさぁ。(^^;)

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