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無駄なく流用!

手芸用リング

グリコをはじめとして、子供用のお菓子にオマケをつけて販売促進を目指すことは、戦前から行われてきた。

マンガやアニメが子供の人気を集めると、そのキャラクターをお菓子のオマケに取り入れる風潮が見られる様になった。

キャラクターの使用が売り上げに直結することが認識されると、

著作権をもつ制作会社と菓子メーカーはタイアップで双方の利益を追求する様になる。

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しかし、製菓メーカーの主たる顧客である子供は、あまり高価な商品を購入することはできず、

キャラクターの著作権使用料が上がると、それまでのようにキャラクターの人気に頼った商品開発ができなくなってきた。

キャラクターに頼らずに、オマケ自体の魅力で移り気な子供の購買欲を刺激し続ける必要が出てきた。

プラスチックを原料に、カラフルな色彩と細かな造形が可能になったオマケは、

ギミックに様々な工夫をこらしつつ発展して行ったのである。

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そんな中、オマケ同士を繋げることで、いくらでも欲しくなる画期的なアイデアの商品が発売された。

明治製菓の「ピコタン」が発売されたのは昭和49年(1974年)だったことが、明治製菓の社史に記載されている。

「明治製菓の歩み 買う気で作って60年」より引用

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当時のギミックを多用したノベルティのアイデア集である、「ノベルティーズ製作ヒント集 おまけの玩具(おもちゃ)

(昭和58(1983)年 浅山守一: 自由現代社)という書籍には、繋ぐことに重点をおいた初めてのオマケとして紹介されている。

「ノベルティーズ製作ヒント集 おまけの玩具(おもちゃ)」より引用

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発売当初は大ヒットで、当時のお菓子屋では品切れになっていた記憶がある。

価格は50円で、ウェハーチョコと、2個の人間型ブロックが入っていた。

Meiji SWEETS GUIDE No.12より引用

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明治製菓の純製品が手に入らないとなると、子供達はパチモンで我慢するようになる。

当時は、デザインの模倣について今の様に厳しくなかったので、沢山の駄玩具メーカーが模造品(パチモン)を製造し、

駄菓子屋や、お土産屋、玩具店等で販売したことがわかっている。

パチモンは様々な形状的な特徴から二十数種類に分類される。

ピコタンのパチモンに関しては「ピコタン大図鑑」を参照されたい

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純正のピコタンは、つま先の出ている前面に左上から右下に斜線が入っており、

裏面には、おじいさんから子供まで、老若男女の柄が入っている。

左から純正後期型、純正前期型

駄菓子屋等で販売されたパチモンは、この純正のデザインに似せたものから、全く違うヒーローっぽい絵柄まで様々な種類があった。

商品名は「人間ブロック」、「人形ブロック」、「ブロックマン」等、人間型のブロックであることを表すものが多かった。

販売価格は、最も一般的な、大きな厚紙台紙に、タグ付きの袋入りがホチキス留めされたタイプが50円であった。

他にも様々な形状のプラスチックケースに入れられた商品が確認されている。


人形ブロック

人形ブロック

人形ブロック

人形ブロック

人形ブロック
顔ありB 顔なしD 顔なしD台紙 顔なしD台紙(色違い) 顔なしB・C 顔ありD

人形ブロック

おもちゃのシマデン

顔ありF
顔ありF・H

顔ありF・H

顔ありF・H

顔なしI
顔なしI

人形ブロック

人形ブロック
顔ありF 顔ありF・H 顔ありF・H、顔なしI 顔なしF・K 顔ありK 顔ありK台紙
ピョコピョコ
組立ブロック
ピョコタン
くみたてパズル

顔ありJ

顔ありE

顔ありE台紙

顔ありE

顔ありE台紙

顔ありE

人間ブロック

人間ブロック

人間ブロック

人間ブロック

人間ブロック

ピコタン
顔ありC 顔ありC台紙 顔なしL 顔なしL台紙 顔ありCケース入り 顔ありCケース入り

メリーゴーランド

人間ブロック

人間ブロック

ブロックマン

ブロックマン
顔ありC2 顔ありC突起付き 顔なしK 顔なしK台紙 顔なしG 顔なしG台紙

ブロックマン

ブロックマン

ピッコロパズル
顔なしGケース入り 顔なしE 顔ありA 顔ありA 顔ありA 顔ありA


ジャンボ注射器
水てっぽう

ピコタン ハウスケース

ジャボタン

たこちゅうセット
顔ありA1 顔ありA・D 顔ありL 顔なしH 顔なし大型A 顔あり中空大型A

ミニブロック
動物ピコタンパチモン

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後述するが、ピコタンのデザインは外国で作られたものだったが、

日本ではピコタンのパチモンとして独自の発達を遂げて、腰部に球状のジョイントが追加されたものが作られた。

意匠公報471097(クリックで別ウインドウで拡大)

ピコタンに見られる頭部や腕部、胴体中央の穴のデザイン等も含めて、腰部にジョイントを持つ人間型ブロックは、

駄玩具メーカーの一つであるマルコー産業によって意匠登録がなされている。(特許庁特許電子図書館「意匠文献番号索引照会」より引用)

このタイプも類似のデザインで、様々な駄玩具メーカーが製造していたことがわかってきた。


ポーズブロックマン

お早う!!ポコタン

お早うポコタン

お早うポコタン

ポーズブロック

ポーズブロック
2パーツパチモン小 2パーツパチモン中 2パーツパチモン中 2パーツパチモン中 2パーツパチモン 2パーツパチモン

ロボくんブロック

合体ダッチ

合体ダッチ台紙

スポーツ大将

マンガ人形ブロック

ドカベン
マンガ人形ブロック大
2パーツパチモン 2パーツパチモン 2パーツパチモン 2パーツパチモン 2パーツパチモン平頭 2パーツパチモン平頭

ドカベン
マンガ人形ブロック小

ロボットパズル

合体
ロボくんブロック

ロボくんブロック
2パーツパチモン平頭 2パーツパチモン顔無しC 5パーツパチモン 5パーツパチモン

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このように、明治製菓のピコタンのデザインは様々なメーカーから、様々な商品名で作られてきたことがわかった。

さて、ここからが本題であるが、コロナ禍で長いこと中止になっていたフリマが再開されたということで、

早速、ぜんまい太郎氏が新発見を送ってくださった。

タグ付き袋入りのパチモンピコタンである。

商品名は「手芸用リング」となっているが、他の商品のタグを流用したものと思われる。

他のタグでは表裏で違うことが多いが、今回のタグは同じデザインであった。

入り数は20個で、色は緑、ピンク、黄色、赤、青、白、オレンジの7色だった。

興味深いのは、2種類のパチモンが混在していることである。

緑から赤の4色はA2型と命名したタイプで、残りの3色はB型であった。

各色は2〜4個で、それぞれのタイプが9〜11個で、合計は20個になっている。

緑(A2) ピンク(A2) 黄色(A2) 赤(A2) 青(B) 白(B) オレンジ(B)
1 2 3 2 2 4 3 4 20
2 3 3 3 2 3 3 3 20
3 2 2 3 3 4 3 3 20
4 2 2 2 3 3 4 4 20
5 2 2 3 3 3 3 4 20
6 2 2 3 3 4 3 3 20

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中に入っていたパチモンは2種類で、A2型とB型と命名したタイプのものであった。

左側から純正後期型、A2型、B型

純正は前面(踵が出ている方)の左上から右下に斜線が入っている。

このデザインは2種類のパチモンでも見られる。「ブロック人形」という商品名で顔のデザインが純正に良く似た「末広玩具」の顔ありK型と、

人形ブロック」という商品名で、純正の学生服と似た絵柄でラフな造形の「シマデン」の顔ありF型である。

左から純正前期型、パチモン顔ありK型、顔ありF型

この斜線デザインは、逆に右上から左下に向うものもある。

顔は純正の「吊りズボンでか鼻」と「真珠のネックレス」に似ている2種類の顔があり、袋入りで見つかることが多いメーカー不詳の顔ありA1型。

顔ありA1型に良く似ているが足の彎曲が少なく寸胴な印象で、「星のペンダント」と「拳銃を腰に挿した野球帽」にそっくりな顔ありA2型。

A1型、A2型よりも造形がラフで脇の突起が尖っており、顔は純正に良く似たI型の3種類がある。

左から純正後期型、パチモン顔ありA1型、顔ありA2型、顔ありI型

今回見つかった顔ありA2型は、当時は見られなかったが、某クションでデッドストックが手に入る様になってはじめて確認された、

いわゆる「新種」であった。

某クションで、なぜかパチモンピコタンが封入されている注射器を入手した。

この注射器のピストンの中に、顔ありD型と命名した表面に柄がなく、裏面は純正のデザインと大変よく似たタイプが2個と、

純正と反対の斜線を持つA2型が見つかった。

左から顔ありC型2個、顔ありA2型

A2型は純正に比べて若干小さく「拳銃を腰に挿した野球帽」の絵柄であった。顔ありD型はさらに小さく寸胴であることがわかる。

左から純正前期、純正後期、顔ありA2型、顔ありD型

この注射器を入手する前に、大量のパチモンを入試た際に、今までA型と分類していた逆向き斜線タイプに、

星バッチ顔のものが1個見つかっていた。

左から純正前期、純正後期、顔ありA2型、顔ありD型

注射器には入っている「拳銃を腰に挿した野球帽」と比較したところ、それまでのA型としていたタイプよりも小柄で、足の彎曲が少ないことが確認され、

新種として、A2型と命名することとした。

その後、他の機会に某クションでこのA2型を大量に落札することができた。

そこで判明したことは、顔は「星のペンダント」と「拳銃を腰に挿した野球帽」の2種類しかなく純正と大変良く似ている。

色は黄緑、青、ピンク、黄色、赤の5色であった。

造形は精度が高く、しっかり腕も繋ぎやすい。

A1型に比べて脚部が細いためくびれが少なく見える。

左から顔ありA1型(前後)、顔ありA2型(前後)

最近になってA1型は、「ピッコロパズル」問いう商品名でタグ付き袋入りで売られていたことがわかった。

また、注射器に封入されているものも見つかっており、「ジャンボ注射器 水てっぽう」という商品名であった。

この注射器のタグには「高藤」というメーカーロゴが確認された。

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今回、今まであまり見られなかったA2型は、注射器に封入されていたのも確認され、A1型とのデザインの関連性から同じ系統かとも思われたが、

注射器では顔ありD型と、今回の「手芸用リング」のタグの付いたものでは、顔ありB型と混在していたことから、謎が一層深まった。

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今回、顔ありA2型とともに見つかった顔ありB型は、.人形ブロックという名称で、タグ付き袋入りのデッドストックを入手したことがある。

前面は小さなボツボツがランダムに散っていて、裏面はラフではあるが純正の顔に似せた柄になっている。

造形はラフで、特に腕部と脇の凹部は作りが雑で腕と腕を組み合わせるのは非常に困難である。

前面に細かいボツボツは、パチモン顔ありF型にも見られる。

このタイプは「ピョコピョコ組立ブロック」と「ピョコタンくみたてパズル」という商品名で、

大台紙に、小台紙にブリスターパックがホチキス留めされているのが確認された。

どちらの大台紙にも、「三重丸にイ」のロゴのメーカーであった。

顔ありF型は腹部にボツボツの上に3本の線が入っている。

このタイプは顔が返信ヒーローや怪獣のような、純正のデザインと全く違うものであった。

腹部の3本線は顔ありC型にも見られる。

このタイプはリンゴ型のプラケース入りのセットが見つかっている。

顔は8種類のうち、半数は純正のデザインを模したものになっている。

商品名は「人間ブロック」で、先述のリンゴケース入りと、大台紙にタグ付き袋入りが見つかっており、

リンゴケースに封入された紙テープには、マルコー産業のロゴが入っていた。

左から顔ありF型、顔ありE型、顔ありC型

明治製菓の「ピコタン」の流行は、第二弾の「動物ピコタン」や第三弾の「運動会ピコタン」を含めても2年程度と思われるが、

その間にいくつもの駄玩具メーカーが他社の動向に目を配りつつ、それぞれにパチモンを作っていたことが、この類似性からもわかる。

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顔ありB型のタグに描かれたイラストは腰のくびれがなく腕が長い、特徴的な形状をしている。

これはピコタンよりも前に藤田屋商店から発売された独特な形状のブロック玩具の形状に良く似ている。

取材したところによると、藤田屋商店は、外国の見本市でこのデザインに目を付け、ピコタンの発売よりも前の昭和44年には販売されていたことがわかった。

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玩具商報(昭和44年1月1日号)より引用 玩具商報(昭和44年8月15日号)より引用

この胴体のくびれがないデザインのブロックには、ピエロの絵柄が描かれてるいことからピエロ型と称することにした。

.ピエロ型も藤田屋商店製だけでなく、メーカー不詳の大型のものや、胴体に「MADE IN HONGKONG」の刻印のある小さいサイズのものも見つかっている。

ブロックボーイ

ピンキーブロック

ピンキーブロック

ピンキーブロック

ピンキーブロック

ピエロA型

ピエロA型

ピエロB型

ピエロB型
ピエロB型 ピエロB型

SAFETY TOY
ピエロC型 ピエロD型

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今回のサンプルの注目すべき点は、他の商品のために作られたと思われるタグを流用していることである。

商品名は手芸用リングとなっている。

パチモンピコタンが手芸に使えなくもないだろうが、リングではないのは明らかである。

「手芸用リング」で検索したところ、「チエンリング」というカラフルなプラスチックリングがヒットした。

そのページに「手芸用」という文字が検索でヒットしないので、画像検索の類推かもしれないが、

確かに当時、バネを一巻きだけ切ったようなリングが売られており、自転車のスポークにつけて車輪の回転に合わせてカチャカチャ言わせたり、

ネックレスやブレスレットにしているのを見たことがある。

そういった女子用の駄玩具のタグを流用したものと思われる。

このタグには大小2つのホチキスが打たれている。

これは、小さなホチキスでタグで蓋の口を閉じると同時に、大きなホチキスで台紙に留めて、

子供が台紙から一袋ずつちぎって買うような販売形態だったことがわかる。

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他の駄玩具の台紙やタグを流用した例は、たこちゅうのパチモンでも見られた。

パチモンタコチュウ(J3・O型)の大台紙は、「安全ブーメラン」や「スコアゲーム」という他の駄玩具の大台紙が流用されている。

タイトル部分にはカラーコピーされた商品名がホチキスで台紙に留められていた。

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大台紙の上部には「丸に満」のメーカーロゴが確認された。

しかし、たこちゅうのカラーコピーにはメーカー名がなく、「丸に満」のロゴのメーカーは製造会社か販売会社(問屋)かは不明である。

後に見つかった大台紙付きのサンプルはは、ブーメランの台紙にたこちゅうのカラーコピーがあり

大型のホチキスで大台紙に留められた小台紙は、「チャームリング」と書かれている。

「チャームリング」の小台紙には、球体の前後に2本ずつ先端に小さな球体がある足がでているパーツを組み合わせて環状に繋げたイラストが見られる。

このような形状の透明のブラスチック製の駄玩具を見たことがあり、その小台紙を流用したものと思われる。

小台紙には「丸に満」のロゴがあり、このパチモンタコチュウも「丸に満」の会社で作られたものである可能性が高い。

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パッケージの流用はパチモンピコタンでも見ることができる。

駄玩具をまとめて落札した際、パチモンピコタン顔ありF型が入った袋のタグは「Pretty Toy」と書かれている。

他の袋のタグも「昆虫シリーズ」と書かれたものであった。昆虫の絵柄の周りは型抜きされておりシールになっている。

これが何か昆虫に関係する駄玩具の台紙だったのか、このシール自体が商品だったのか、詳細はわからない。

これらの袋には、パチモン顔ありF型の他にも、同じ経常的な特徴を持ち悪役の絵柄のパチモン顔ありH型、

動物ピコタンのパチモンが少量入っていた。

パチモン顔ありF型と動物ピコタンのパチモンは「シマデン」とういう駄玩具メーカー製であることが、他の商品からわかっている。

  

これらの流用されたタグには小さなホチキスで留められており、大台紙に固定させる大きなホチキスは見当たらない。

大きな台紙につけることもなく、見切り品として箱等に入れられて棚に置かれたか、

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流用はピコタンの元になったピエロ型の玩具でも確認されている。

ピエロ型が厚紙の台紙に2個ずつ入っている袋入りを見つけた。

台紙には車の絵が描かれており、手には入ったものを全部並べてみたところ、トラックの玩具のパッケージを裁断して再利用していたことがわかった。

藤田屋のメーカーロゴが確認された。

しばらくして車輪はオリジナルではないが、このパッケージイラストと酷似したトラックの駄玩具を発見した。

イラストと同様にドアには藤田屋商店のロゴが貼られている。

(荷台のたこちゅうはイメージです)

この場合は駄玩具とピエロ型のメーカーが同一であることが確認できた。

駄玩具のセットに、ピエロ型の「ピンキーブロック」の箱入りが付いているのを発見し、入手した。

車の玩具やゴーグル、怪獣のプラスチック製人形がホチキス留めされており、藤田屋のロゴが入っている。

しかし、その玩具が留められている大台紙を見たところ、前田のクッキーのパッケージの断裁前の厚紙だったのである。

台紙の全体像

藤田屋と前田の関係性はわからないので、なぜパッケージが使われているのか、詳細は不明である。

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今回の手芸用リングと書かれたタグの付いた、2種類のパチモンが入った袋入りは、

他メーカーと思われるパチモンが同一の袋に入っていたことについては、一層謎を深めた。

他玩具のパッケージが流用された例が追加されたことは、当時の駄玩具販売のフレキシブルというか、いいかげんと言うか、

生産者側としても、購入者としての子どもの側にしても、柔軟に捉えていたことを示す重要な資料であると思われる。

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コロナ禍で長いこと中断していたフリマが再開され、そのパトロールで発見されたものである。

ぜんまい太郎氏の圧倒的な捜索能力に感謝したい。

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と、言っても、もう50年も前のオマケの、それもパチモンですよ。

覚えている人も殆ど居なければ、どれが本物で、どれが偽物で、その偽物の種類がどうのなんて言ってる人なんざぁ居ませんって。

わっかるかなぁ、わっかんねぇに決まってンだろうなぁ。

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