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黄色い台紙が謎を呼ぶ

ヒーローものパチピコ

1970年代の半ば。正確にいえば1974年。

明治製菓からチョコレート菓子「ピコタン」が発売された。

人間型のブロックが2個入っており、頭や脚、手、胴体の穴やつま先と

多くのジョイントを持ち、自在に組み立てることができるのが特長であった。

組み立てられるとなると、大きなモノを作りたくなるのは、誰でも一緒。

どんどん集めて組み立てる。

組み立てて遊ぶことを提案した最初のおまけであったようである。

ピコタンに関しては「ピコタン大図鑑」を参照されたい

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明治製菓のおまけを「純正」タイプと称している。

純正には、前期と後期の2種類がある。

正確にはどちらが先に出たか、文献資料は見つかっていないが、

当時の記憶では、太目のシルエットのタイプの方が先にあったように思う。

左から後期タイプ、前期タイプ

つま先の出っ張りの有る側を表と称しているが、純正には右肩から左下にストライプが描かれている。

裏面には、前期・後期各20種類ずつ計40種類(1種類の口がないバリエーションがあるため、正確には41種類)がある。

顔は、少年、少女、大人の男性、女性、おじいさん、潜水服姿、怪獣の被りもののような絵柄まで

バリエーションに富むが、普通の市井の人々の姿を写したような絵柄になっている。

純正の顔に関しては「ピコタン大図鑑

純製顔一覧1純製顔一覧2を参照されたい

このことは、当時のアニメ等のキャラクターに頼ったノベルティのあり方と一線を画すものであり、

著作権やキャラクターの使用権といった部分の金額を抑えて、組み立てて遊ぶというアイデアを際立たせるために、

敢えて全く独自の「(キャラクターではない)普通の人々」の絵柄を採用したのではないかと考えられる。

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ピコタンは非常に多くの偽物(パチモン)が作られたことが確認されている。

ピコタンよりも数年前から、海外でデザインされた同様のアイデアの人間型ブロックが売られていた。

ピエロの顔が描かれており、このタイプをピエロ型と称することとした。

参考画像:ピエロA型(左は純正後期)

後の調査で、このタイプは日本の玩具業者が海外の見本市で見かけ、

パテントを支払って正式に商品化したものであることがわかった。

このデザインの日本での著作権を持っていた代理店(?)が連絡が付かなくなり、

後にピコタンが作られてきたそうで、ピコタンもピエロ型も同じデザインを元にしたものである可能性が非常に高まった。

詳細は「徹底解明!ピコタンのできるまで(玩具商報から)」を参照されたい。

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このピエロ型にもパチモンと思われるものが複数種見つかっているが、

その中には、ピコタンの後継種である、運動会編からの影響を思わせる、野球のデザインもある。

ピエロ型スポーツ。左からキャッチャー、ヤキュウ

ただ、数を比較的揃え易かったこの駄玩具が、野球遊びのコマに使えるという発想は容易になされたようで、

腰部にボールジョイントを持つ、ピコタンのパチモンである2パーツ型と称するタイプにも、

当時流行した「ロボダッチ」というロボットプラモの影響を色濃く受けたものが見つかっている。

左から合体ダッチ、ロボダッチ「野球ロボ」

さらに、この2パーツ型のパチモン(パチモンのパチモン)として、

野球マンガ「ドカベン」の登場キャラクターの顔を入れたものも見つかっている。

ドカベンマンガ人形ブロック」というもので、もう、こうなってくると渾沌としてしまい、

何が何を真似したと一概には判断できなくなってくる。

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話を元に戻そう。

純正ピコタンでは、アニメやキャラクターから距離を置くために、

敢えて市井の人デザインを採用したのではないかと考えた。

実際、パチモンピコタンを見てみると、この純正のデザインの影響を受けたものが多数確認される。

先に紹介した、右肩から左下のストライプが描かれているものや、

左からパチモン顔ありK型、純正後期

非常によく似た顔をもつもの(パチピコ顔有りA型、D型、K型)、

一部のデザインを流用したり、組み合わせたりしたことが伺えるもの(パチピコ顔有りF型、I型)などがある。

このことをまとめると、以下のようになる。

上掲の表を見ると、最上部の純正と、それに近いデザインを持つものと、全くそうではないものが有るのがわかる。

C型のシンプル系というのは、スマイルマークのようなものや、泣き顔・怒り顔がある。

これには普通のピコタンのサイズのもの(C型)と、より小さくガチャに入れられた(C2型)がある。

左小さなC2型とC型

この他にも、胴体中央にグー・チョキ・パーの描かれているものも見つかった。

ジャンケンマークはメンコにも描かれ、取り扱い説明書のない駄玩具では、

遊び方の提供として、数字等と供に入れられることがあった。

パチモン顔ありG型

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・・・と。

ここまでが、前置きである。

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純正ピコタンには、市井の人々の顔がデザインされている。

ピコタンのパチモンは多く作られたが、パチモンの中には純正の顔のデザインも取り入れたものも多くあった。

しかし、パチモンの中には純正と違ったデザインコンセプトを持つものもあったのである。

つまり、キャラクターの影響力に期待したパチモンがあったのである。

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パチモン顔有りE型と分類した種類があるが、これにはマンガのキャラクターを模したと思われる顔が書かれている。

パチモン顔ありE型

余りにラフな絵柄のため、なんのキャラクターかは俄に確定できないが、

怪獣やウルトラマン、スペクトルマンといったものを模していると思われる顔が6種類ある。

元ネタになった可能性のあると思われるヒーロー番組をピックアップしてみたところ、

1974年の明治製菓のピコタンの発売よりも前の番組を元にした可能性が高いことがわかる。

ミラーマン
1971(昭和46)年12月5日〜1972(昭和47)年11月26日

スペクトルマン
1971(昭和46)年1月2日〜1972(昭和47)年3月25日
仮面ライダーアマゾン 1974(昭和49)年10月19日〜1975(昭和50)年3月29日

ウルトラマンタロウ
1973(昭和48)年4月6日〜1974(昭和49)年4月5日
ゲッターロボ 1974(昭和49)年4月4日〜1975(昭和50)年5月8日

マジンガーZ
1972(昭和47)年12月3日〜1974(昭和49)年9月1日
グレートマジンガー 1974(昭和49)年9月8日〜1975(昭和50)年9月28日
仮面ライダー 1971(昭和46)年4月3日〜1973(昭和48)年2月10日
仮面ライダーV3 1973(昭和48)年2月17日〜1974(昭和49)年2月9日

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表面は荒い梨地と胴体に3本の縦筋がある。

荒い梨地はパチモン顔有りB型に見られる特長で、顔有りB型の顔は純正の絵柄のラフなコピーである。

胴体の縦線はパチモン顔有りC型に見られる。

顔有りC型の顔は、先述のように、純正のラフなコピーとシンプルな笑い顔等の比較的影響のすくないデザインであった。

左から顔ありE型、B型、C型

このようなパチモンピコタンの形態的な特徴は、共通点を指摘することは出来ても、

その形態のみからでは、どちらがどちらの影響を受けたものであるとは、断定しづらい。

ここでは、似た形態を持つパチモンが存在すること、それらの顔が純正の影響を大きく受けている事を指摘するのみにとどめたい。

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版権使用料がどうのとか、作者に許可がどうのとか、パチモンであれば、スルーされ易い。

(いいことか、どうかは、別にして・・・であるが)

ピコタンが発売された1974年といえば、ウルトラマンや仮面ライダーといった大流行が一応の終息を見せ、

1980年代のビックリマンチョコが大流行する前の時期にあたる。

ロボットモノやヒーローモノも作られ続けており、それなりにはヒットしていたが、

以前のような大ブームは起こらず、かつ、著作権意識や版権使用料といった、「お約束」の

縛りがどんどんきつくなって来た時代である。

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たとえば鉄腕アトムや鉄人28号のように、誰にでも知られていて、

その絵柄さえ使えば必ずヒットするというようなキラーコンテンツに乏しい時代になりつつあり、

高騰した版権使用料をかけることの意味が薄れてきていたのではないかと思われる。

グリコのおまけの歴史からもわかるが、この時代はプラスチックという新しい素材を使うことで、

それまでの素材では困難だったギミックを楽しめるようになってきた。

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結果、キャラクターを使わず、オリジナルの絵柄で、ギミックを重視したおまけが多く作られた。

そのあたりの事が、「たこちゅう」の生みの親でもある、浅山守一氏の

ノベルティーズ製作ヒント集 おまけの玩具(おもちゃ)(昭和58年)に書かれている。

「おまけ数433ヶに関しての分析の結果」と題された巻末資料には、

昭和58年(1983年)当時の各社のおまけを集計した結果が書かれている。

時期的にはビックリマンシールの大流行の前である。

素材については92%がプラスチックで、紙(21%)、金属(15%)の順に続く。

1970年代中盤以降のピコタン等の発売時期には、もう少しプラ素材は少なかったかもし知れないが、

印象に残る当時の新商品は、そのほとんどがプラスチック製だった記憶がある。
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組み立てのギミックを最大の「ウリ」としていたはずのピコタンだが、

パチモンになると、色気が出て、より売れるように

キャラクターの助けをちょっと借りちゃってみようかな?的なのが、

この顔有りE型だったということができる。

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このタイプは当時、1個しか見つかっておらず、詳細は不明であったが、

後に某クションで完ピンを入手するに至った。

商品名は「ピョコピョコ組立ブロック」。

台紙に、小台紙にブリスターパック付で12個がホチキス留めされている。

ここのブリスターは、黄色い厚紙の小台紙にホチキス留めされている。

タグには品名と「いっぱいあつめてたのしくあそぼう」のコピーが書かれている。

人間型ブロックの特長である集めることへの訴求が見られる。

左右のピエロのイラストは、ピコタンよりも前から販売されていたピエロ型の影響を考えることができる。

メーカーロゴと思われる丸にイの字のマークがある。

このマークは、明治合体チョコボール(1975年発売)のパチモン、「ミニ合体ブロック」にも見られる。

また、丸にイの字のロゴはないが、台紙の切れ込みや、黄色地の厚紙製の小台紙にぶりスターパックという構成は、

タコチュウのパチモンである、、「チュチュたこちゃん チュ!」でも見られる。

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このメーカーの商品に共通する特長に、ブリスターパックと黄色地に黒い線画の描かれた小台紙がある。

たとえば、パチモンピコタン顔有りE型の「ピョコピョコ組立ブロック」では、

以下のような黄色の地に黒の線画で8体のピコタンが描かれている。

ピョコピョコ組立ブロックの小台紙

胴体は実際のピコタンに似ており、極端に胴体を太く描いた一連のパチモンのパッケージとは異なる。

上から顔ありB型、顔なしD型顔ありC型のイラスト

この胴太のデザインは、ピコタンより前からあった、ピエロ型のデザインに影響されたものではないかという

仮説を立ててみているが、この胴太のイラストが付いているパチモンピコタンには、

純正の顔のデザイン要素が流用されていることが多いことからも、古いもの、

純正や、純正よりも前にあったピエロ型に、系統的に近いものであると考えられ、

写実的なイラストが描かれている場合は、より新しいパチモンであることが考えられるのではないだろうか。

ピコタンより数年前から販売されていたピエロ型の、左からA型、B型

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パチピコ顔有りE型のように、純正の顔のデザインと全く違って、テレビのキャラクターを使ったと思われるものに、

パチピコ顔有りJ型と命名したタイプが有る。

顔は4種類で、いかにもパチっぽい味わいの、ヒーローが描かれている。

元になったと思われる番組の放送時期を調べてみると、

ほぼ同じ時期の番組からモチーフを求めていたことがわかる。

レッドバロン
1973(昭和48)年7月4日〜1974(昭和49)年3月27日

ウルトラマン
1966(昭和41)年7月17日〜1967(昭和42)年4月9日
「帰ってきたウルトラマン」 1971(昭和46)年4月2日〜1972(昭和47)年3月31日

トリプルファイター
1972(昭和47)年7月3日〜1972(昭和47)年12月29日

電人ザボーガー
1974(昭和49)年4月6日〜1975(昭和50)年6月29日

このタイプは当時持っていなかった。

ピコタンは近所の山本君から大量にゆずってもらったのであったが、

その中に入っていなかったということは、山本君の収拾時期に引っ掛からなかった可能性があり、

そのことからも比較的後期の時期のパチモンであったと考えられる。

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この顔有りJ型は、表面は非常に細かい梨地状で、色は色は緑・紫・白・ピンク・黄色・赤の6色が見つかった。

紫は他のパチモンには見られず、なかなか珍しい色である。

形態的な特長としては、つま先が段差状になっており、この部分の形状の解釈としては他に見られない。

しかし、段差になった部分がある分だけ設置面積が少なくなり、安定性は低くなっている。

先の顔有りE型と比較すると、全体的なシルエットはかなり似ている。

身長はE型よりも若干小さくなっている。

左から顔有りJ型、顔有りE型

このタイプの販売形態は全くわからなかったが、例によって某クションにそのヒントを発見した。

黄色地の厚紙小台紙にブリスターパックがホチキス留めされている。

入り数は各色3個の18個である。

大台紙に描かれていたであろう商品名はこのサンプルからはわからない。

小台紙には、黒の線でピコタンが描かれている。

ちょっと背がちいさいが、パチモン顔有りD型に似たプロポーションが見て取れる。

一番下(上掲写真では右側)のピコタンには、胴体の穴を描き忘れている。

このタイプは当時の記憶とてなく、販売形態のわかる資料も、このブリスターパックだけなので、

メーカー名や商品名は不明である。

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明治製菓の純正の顔デザインに敢えて似せずにキャラクタービジネスにのっかることを目指し、

同じようにヒーローに材をとったパチモンで、同じような黄色地に黒線のイラストが描かれているが、

メーカーは違うものであると考えていた。

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が、しかし・・・。

パチモンの世界は無駄に深いのである。

ちょっとくらいパッケージを手に入れたからって、すっかりわかったつもりになっていると、

手酷くどんでん返しを食らわされることがあるのである。

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メンコやビーズ、プラスチック製の女物腕時計といった、駄菓子屋の在庫整理のような出品の中から、

ブリスターパック入りのパチモンピコタンを入手した。

手にしてみると、「ピョコピョコ組立ブロック」と同じサイズ。

中身は先に紹介した、荒い梨地の表面に胴体の3本線もくっきり見られる、パチモン顔有りE型であった。

入り数は、緑、青、黄、赤が4個ずつ。オレンジと白が2個ずつの計20個であった。

が、しかし・・・。

大台紙にホチキス留めされたものとなにか違う。

良く見てみると、黄色地の小台紙に描かれているイラストが・・・。

今回見つかった顔有りE型の小台紙

先に紹介した、パチモン顔有りJ型の台紙と一緒だったのである。

参考;先に紹介した顔有りJ型の小台紙

向って右側のパチピコの胴体の穴が描かれていないことや、それぞれの形状から、

同じ原画から起こされた絵であることが強く推測される。

線のコントラストやどちらかというと、今回見つかったE型の小台紙のほうが「キレイ」な印象を受けるが、

原画の取込みの際の設定で変わってしまう程度の違いでしかないように見える。

違う種類のパチモンピコタンで、ほぼ同じ小台紙が使われていたことになる。

..

顔有りE型は、メーカーが丸にイ。商品名が「ピョコピョコ組立ブロック」ということがわかってる。

大台紙にホチキス留めされていて、小台紙は黄色地に黒線でイラストが描かれていて、2パターン見つかった。

入り数は白、水色が2個ずつ、緑、黄、赤が5個ずつでどれか一色が4個の、計18個

(今回見つかったものは、緑、水色、白、ピンク、黄、赤が4個ずつ。オレンジと白が2個ずつの計20個)。

顔有りJ型は、小台紙のサイズこそ違え、ブリスターパックに黄色地小台紙に黒い線画が描かれており、顔有りE型と同じ絵柄である。

入り数は、緑、紫、白、ピンク、黄、赤が3個ずつの、計18個。

ブリスターパックは、顔有りE型は小さく深いが、顔有りJ型は大きく平たくなっている。

はたして顔有りE型と顔有りJ型は同じメーカーの商品なのであろうか。

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ピコタンでもたこちゅうでも、駄玩具一般もそうであるが、

製造メーカーと、製造された駄玩具を取りまとめてパッケージ化して卸す会社が違っていることが有り、

そのあたりは、個々の業者に当時の事を聞かねばならず、事実上非常に困難である。

パチモンの形状も、顔のデザインも、ヒーローものを熱かっているという共通点はあるが、

そのデザインテイストは同じとは言い切れない。

それぞれのメーカーが作った、顔有りE型と顔有りJ型を納入されたメーカーが、

共通の小台紙を作ったとも考えられる。

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この疑問に対して、現在所有しているサンプルだけからでは明確な答は出せない。

共通小台紙が使われた大台紙付き完ピンの商品名がわかり、大台紙にメーカーロゴでもない限り

絶対に正しいと言い切れる回答はできないのである。

とりあえずは、共通の小台紙が違ったパチピコのパッケージに使われていたという指摘をするだけにとどめなくてはならない。

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ネットでピコタンを検索すると、多分同年代なのであろう人々が、

海苔やクッキーの缶にピコタンをジャラジャラと集めていたという回顧を書いている。

この時、多少組み立てが難しかろうと、あまり気にせずパチモンもいっしょくたに集めていた様である。

超合金やミクロマンに関心を奪われた子供が、ピコタンにどんな役割を与えるか。

それは、超合金のパイロットであり、敵に攻撃されて逃げまどう一般市民であったようだ。

そんなわけで、当時あれだけ沢山の種類があったにも係らず、種類とか商品名とかに関する記憶はネット状に見つからない。

純正(明治製菓製の本物)以外はどれも一緒だったのである。

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なのに、ウチのサイトは、20種類以上のパチモンを分類し、

その多くは商品名や販売形態も確認している。

こんな詳細な情報が、他にありますか?

ないでしょ?

最近、ソフビだのキャラクターモノだの、超合金やプラモなんかも中國人が買い漁っているそうな。

そんな連中も、たこちゅうだの、ピコタンだのには、まだ気が付いていませんよ。

ってことは、多分世界で唯一のコンテンツ。

は?だからどうしたって?

いや、そう言われましても、アレなんですけど。

日々精進していく覚悟でございます。

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