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どこに目ぇ付けてんだ?!

エラー品から成型について考える

まあ、とりあえず、このタコチュウを見て下さい。

なんと!!目の付け所が全く違っている(いろんな意味で)。

タコチュウのパチモンには多くのバリエーションがあることはこのサイトで紹介してきた。

その中には、型の流用の経緯のなかで顔が削られたと思われるものも見つかった。

しかし、今回発見されたこのパチモンタコチュウは、

なぜこのような形になったのか、その成型方法を考えるほどなにがどうなったのか、全くわからない。

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左からH型、今回のパチ、H2型

仔細に見てみると、顔はH型系列のものと全く同じであるのがわかる。

H型には以前から持っていたH型の他に、最近、クリア素材で柔らかい素材で作られたH2型が発見された。

今回のは、色こそH型に近い不透明の黄色だが、吸盤の大きさや素材の柔らかさはH2型に近い特徴を持っている。

左からH型、今回のパチ、H2型

形状に注目すると、足の長さはH型より短いH2型とほぼ同じである。

口はH型より短く、H2型より若干長いがほとんど変わらない。吸盤はH型より大きく薄くなっており、H2型に酷似している。

左からH型、今回のパチ、H2型

本体の球体はH2型はH型より多少大きいが、今回発見のものはH型に近い。

これらの形状的特徴から、H型とH2型の両方の要素を持っており、H型・H2型の関係性が強いことの旁証ともなりうる。

これにより、今回のパチモンは、目の位置という特殊性を置いても、別種としての特徴を持っているものと考えられるので、

今後はH3型と分類することにしたい。

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次に、なぜ目の位置が違っているのかを、タコチュウの成型の視点から分析してみることにする。

タコチュウを良く見てみると、上掲の写真の様に前部と後部の2片を接合して作っているのがわかる。

さらに、側面を通るパーティングラインに注目すると、右の写真の様に下面の吸盤の凹部にはラインがない。

これは吸盤凹部を作るために突起のある台座のようなものを置き、前面パーツと後面パーツをその上で合わせたことを推測させる。

前面の吸盤には一段凹んだ部分があることがわかる。

これらの特徴から、タコチュウの型の形状を考えてみたのが以下の図である。.

タコチュウの型は前部・後部・台座の3パーツからなり、前部吸盤の部分に剥離させるための可動部があったと思われる。

素材は上部から注入したものと考えられる。

左から純正初期型、最後期型、パチモンC型、パチモンG型

純正初期のゴム製は、後期のプラ製やパチモンよりも比較的大きい注入部があり、これは素材のしやすさに因るものと考えられる。

純正、パチモンのほとんどが前面パーツの方に注入口があるが、G型は後部パーツ側に注入口がある。

G型と同じゴム素材で、同じ系列と考えられていたK型・L型も、注入口は後部パーツ側にあった。

このことからもG型とK型・L型との関連の深さが一層明確になった。

この可動部の存在は上記のJ3型に見られるように、口の吸盤の中心が凹んでいて、

さらに付け根の部分が膨らんでいるものが見つかり、

このような形状の変化が、プラ素材が完全に硬化する前に型から取り除こうとして変形したことを示すと思われる。

この前部吸盤の中央部の凹みの直径は、純正やパチモンH型、パチモンA2型といった吸盤の厚さが大きいものほど大きく、

H2型・H3型、パチモンA型といった吸盤の薄いものや柔らかいものほど小さい。

このことから、吸盤の薄いもの、柔らかい素材を使ったものは、この可動部分の必要性が低かった可能性がある。

A型とA2型、H型とH2型・H3型といった、顔が全く同じでも、素材と吸盤が違うものは

この凹みの直径が違うことは、注目すべきことでであると考えられる。

純正は比較的品質のばらつきが少ないが、最近入手したものの中に、足の吸盤にバリのあるものが確認された。.

足の吸盤には口の吸盤に見られる凹部がみられないことから、前述の足の下から押さえる型の構成を想像したが、

このバリが発見されたことにより型の構成の予想が正しかったことを示す証左になるものと思われる。

タコチュウの顔には純正やH型系・C型系の彫り込まれているものと、そのほかのパチモンに見られるエンボスの2系統がある。

彫り込まれているということは、型の状態では顔の模様の部分を盛り上げないといけない。

それに比べてエンボスのものは型に彫り込みを入れればいい。

原形を作って、それから金型を作るとき、どちらが簡単かは一概に言えないが、

型を彫り込んでエンボス状にしたほうが作りやすいと思われる。

しかし、どちらの系統にしても、顔が全く同じなのに吸盤の形状の違うタイプが確認されている。

前述のA型とA2型、H型とH2型、今回発見のH3型がそれである。

A型とH2型・H3型は、A2型、H型よりも柔らかい素材で、吸盤の厚さも薄い。

先にあげた型の想像図を見てもわかるように、吸盤の部分の成型は型の形状に因るため、

吸盤の形状の違いは型の違いを示すものと思われる。

ということは、違う型に全く同じ顔を付けることが出来たということで、それぞれが同じ原形から作られたと考えられる。

吸盤の違いはロットの違いかとも思われるが、或る程度の数量の生産を前提とした商品であれば、

耐久力のある金属の型を使用すると考えるのが妥当だと考えられ、そうするとわざわざ別の型を作った理由がわからない。

ものによってはいくつもが同時に作れるような枝分かれした型を使用すると思われる駄玩具もあるが(たとえばピコタン)、

タコチュウの場合、吸盤が2個ある特殊な形状から少なくても3方向から押さえる型を作らねばならず、

また、吸盤の吸着力を確保するため弾力のある素材を使用せねばならず、

かなり生産性の低い型取りをする必要があることが考えられ、様々な吸盤形状の型を作りわけるのは、大変非効率的である。

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吸盤形状と素材は非常に密接な関連があることが考えられるが、同じ顔のデザインを持つ生産者が

材料を変更するためにわざわざ高額の型を作り直したとも考えづらく、同じ顔をもつゆえにこれらのタイプの存在理由がわからない。

まして、今回のH3型については顔の位置が違っており、型の作り方から考え直す必要があるのかもしれない。

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その後、オフ会の時にこの辺の成型について、ウルトラセブン Vintageの三浦氏に伺ったところ、

いくつかの興味深い示唆をいただいた。

・顔が同じで吸盤の形状が違うものについては、型をその度に新造したものである可能性が高い。

・顔が全く同じで吸盤等が違うのは、顔の部分だけの押型の様なものがあった可能性が考えられる。

参考画像:顔の押形の形状イメージ(吸盤を切除された純正の写真を画像修正したもの)

・このエラー品はその押型の天地を間違って顔を付けてしまったのだと考えられる。

・A型よりA2型のほうが球形部分が小さい。A型をもとに型取りして複製し、吸盤を新造した可能性がある。

・前半部を型から抜くときに、吸盤の中心に可動部を持つ型を使っている可能性は高いが、

可動部分で押し込むのではなく、引き抜くことによって空気をいれて吸盤部分を剥離させることもありうる。

・・・とのことであった。

実際の金型は上記の想像図で大体あってると思われるが、顔の部分は金型を作る前の原形で作るのだが、

その作り方に球形の押型の存在を指摘したのはさすがである。

この手の型はいままで想像していたよりも比較的簡単に作れるという印象を受けた。

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まあ、なんといっても、考えもしなかった形状のタコチュウが20年以上して発見されたということで、

タコチュウの世界の底知れない深さが、より深く認識されたのである。

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