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開けたら普通棄てるでしょ?!

うんどうかいピコタンのパッケージ

明治製菓の社史「明治製菓の歩み 買う気で作って60年」(昭和52年)によると、

チョコレート菓子の「ピコタン」の新発売は1974年となっている。

「明治製菓の歩み 買う気で作って60年」より引用

漫画などのキャラクタービジネスが確立すると版権使用料が高騰しだしたといった大人の事情がでてきたのであろうか、

この頃、菓子メーカーが独自のノベルティを続々と投入するようになった。

プラスチックの1パーツというシンプルなデザインでありながら、

「集めてつなげる」という楽しみ方を提案した、最初期のノベルティがピコタンであった。

当時、たこちゅうやカニタンといったノベルティを開発した浅山守一氏の

「ノベルティーズ製作ヒント集 おまけの玩具(おもちゃ)」という本にも、以下の記述が見られる。

「ノベルティーズ製作ヒント集 おまけの玩具(おもちゃ)」より引用

同じ形のオマケを沢山つなげて遊ぶため、より大量のピコタンを集めたくなる。

おかあさん連に「1個あるから、いいでしょ?!」とか、「沢山あるんだからもう充分でしょ?!」とか、

言われた人も多かろうが、ピコタンやたこちゅうといった、数が増えれば増える程、遊び方が広がる

コレクション性の高いオマケは、数があればあるほど良いのであって、当時の小学生たちは

お小遣いをあるだけぶっこんだり、品薄の純正は敢えて買わずに、同じ金額で数が揃うパチモンを買い集めたのであった。

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繋げられる人間型のブロックと言うアイデアは、実はピコタン以前にあったものである。

明治製菓からピコタンが発売されるよりも5年も前に大阪の玩具店から「ブロックボーイ」や「ピンキーブロック」という名称で

販売されていたことが、業界誌「玩具商報」の広告から判明した。

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玩具商報(昭和44年1月1日号)より引用 玩具商報(昭和44年8月15日号)より引用

詳細は「徹底解明!ピコタンのできるまで(玩具商報から)」を参照されたい。

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藤田屋商店に取材したところ(2006年頃?)、当時を知る方からお話を伺う事が出来た

当時はヨーロッパの玩具見本市などに取材に行くことがあったそうで、このブロックもドイツで入手した見本をもとに作ったそうである。

しかし、東京の他の業者が、日本での特許(意匠権)申請を行い特許をとってしまったそうな。この業者はピエロ型の販売に関して特許侵害を主張し、電話に出て下さった方が担当者として、何度も東京と往復し交渉をしたということであった。

結果、東京の業者を本家、藤田屋商店が分家的な立場になることに決まり、東京の業者に特許(意匠権)使用料を払うことで解決したという。この業者は実際には商品を製造することは無かったようだったそうである。

そのうち、この東京の業者が破産したらしく夜逃げして、先方の弁護士から特許権者がいなくなったので、ロイヤリティを払わなくて良くなったと連絡を受けたとのことである。

その後、しばらくして明治製菓から、人間型ブロックを使いたいという問い合わせが藤田屋商店にきたそうである。しかし、東京の業者が既に無く、ロイヤリティを支払う先が無いのではないかと答えたそうである。

それから明治製菓からこのブロックをプレミアムにしたお菓子が出たようだったが、明治製菓から再度の連絡は無かったそうである。

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この宙に浮いた形の人間型ブロックを明治製菓に紹介した人の記事がある事を、ぜんまい太郎氏から御教示いただいた。

「ちびっこ広告図案帳70's」(おおこしたかのぶ編 オークラ出版オークラ出版 2003年)に、

当時ヒットしたプレミアムを多く手掛けた、エースプレミアム代表 太田俊策氏のインタビュー記事の中に、ピコタンの写真があった。

記事によると、当時、太田氏は海外の玩具ショー等で見つけた商品を、国内のメーカーに紹介することを仕事としていたという。

キャプションは「75年以降の」となっているが、実際の明治製菓からの発売は1974年である。

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明治製菓の社史には、当時のピコタンの広告画像が載っている。

「明治製菓の歩み 買う気でつくって60年」より(1976)

紹介されている画像は、第二弾として発売されたどうぶつシリーズが写っているが、

パッケージは第三弾のうんどうかい編になっている。

この画像は、「今でも買える昭和のロングセラー図鑑 まだある。大百科〜お菓子編〜」

(初見健一 大空出版 2008 p.253)にも紹介されている。

今でも買える昭和のロングセラー図鑑 まだある。大百科〜お菓子編〜より

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ピコタンの発売から10年以上を経た70周年史にもピコタンの記載があり、

第三弾のうんどうかい編が発売された際の広告らしい「新規格」の文字の入った画像が掲載されている。

「明治製菓の歩み 創業から70年」より(1986)

なお、60周年史にも70周年史にも、同年に発売された「きのこの山」のために存在が薄れたためか、

明治合体チョコボールは記載されていない。

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で。

ここまでが、復習。総まとめ。

こうしてみると、「ピコタン」を紹介している本も少なくないことがわかる。

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そして、ここからが、今回の本題。

上掲の写真にでてくる、うんどうかい編のパッケージの原物を入手した。

商品名は「ピコタンうんどうかい」である事がわかった。

細長いバータイプのウエハースにチョコをかけたものが2本入っていたことがわかる。

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裏面には文字がなく、商品が入った状態では、文字は側面にくるように印刷されている。

側面右側には商品名と不良品の注記が書かれている。

『明治チョコレート うんどうかいピコタン <準チョコレート>

万一品質に不都合の点が、お求めの店名をそえ現品

を消費者サービス室にお送りください。代品と郵送料をお送りします。』とある。

部分拡大

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左側には原材料とメーカー情報、価格が印刷されている。

『原材料:準チョコレート(砂糖 植物性油脂 カカオマス 全脂粉乳

脱脂粉乳 レシチン 香料)センター(ウエハー 植物性油脂 砂糖 ブドウ糖 脱脂粉乳 香料 クエン酸 レシチン天然色素)

メーカーロゴ 明治製菓株式会社3 104東京都中央区京橋2-8 50円』と書かれている。

郵便番号が3桁なのが、時代を感じさせる。

部分拡大

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左右両面には、意匠権出願中の文字がある。

側面左側、側面右側の意匠権出願中の文字

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先に紹介したエースプレミアム代表 太田俊策氏のインタビュー記事では、意匠権登録はしていないということであった。

「ちびっこ広告図案帳70's」より

太田氏が紹介した、初代の人間型のピコタンは、ヒットしてから後に、多数のパチモンが作られ駄菓子屋等で発売された。

第二弾のどうぶつ編についても、パチモンの存在が確認されている。

うんどうかい編には明治製菓製のもののデザインをパクったサンプルは見つかっていない。

この事は、第三弾ともなるとさすがに人気も衰えてきて、

高価な型を作ってまでパチモンを作ってもペイしなかったのではないかと、漠然と思ってきた。

しかし、このパッケージの「意匠権登録出願中」の文字から、

明治製菓は実際に出願することで、他業者のパチモン作成を牽制したのではないかと思われる。

最初の人間型ブロックは、先行した藤田屋商店の「ピエロ型」に基本的なコンセプトはよく似ていたため、

意匠権の登録は当然遠慮されたと思われるが、動物編がでて、うんどうかい編にいたっては、

ジョイント部分の寸法こそ共通だが、形状のデザインは全く独自のものであり、

意匠権を主張できると考えられたと推察しうる。

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明治製菓が登録をしなかった、

『上半身の頭部後面と胸部に設けられる孔と、下半身の上部背面に設けられる孔に、下半身足部の先端を嵌入し、

前後方向に連結でき、また上半身の両肩部と胸部両側に設けられる凹溝に上半身の両腕部先端を嵌入し、

左右側方にも連結して遊べるようになっている』という意匠は、

昭和50年(1975)にマルコー産業が意匠権登録申請を行っている

...........................特許電子図書館より引用

マルコー産業は、たこちゅうや明治合体チョコボール等の有名菓子メーカーのオマケのパチモンを作った会社である。

ピコタンの人間型ブロックの意匠も、腰部にボールジョイントを入れて2パーツにしたパチモンを作り、

腰部の可動部と一緒に申請して、後に意匠登録を完了したようである。

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ピコタンは、上掲の細長いパッケージに、オマケとチョコが2個入っていた。

袋と同じ長さの黒っぽいボール紙の台紙が入っており、チョコを破損から保護していた。

以下の図はたこちゅうのパッケージのイメージであるが、ピコタンも同様の構成だったように思う。

参考図版:たこちゅうのパッケージ構成

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オマケは、2個ずつ入っており、厚紙製の帯状のケースに、同じ紙質の細い帯をかける仕様であった。

今回入っていたのは、やきゅうとすきーの2種類であった。

裏面には、丸C明治製菓と材質のポリエチ、やきゅうやすきーの文字が入っている。

それぞれには、丸C明治製菓の文字と、素材のポリエチの文字が書かれ、

それぞれの種目名がなぜかひらがなで書いてある。

左からやきゅう、すきー

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最初の人間型ピコタンには、メーカー名も、素材名も何も文字は入っていない。

どうぶつ編になると、動物の種類とメ−カー名が書かれている。

どうぶつ編のデザインは、種類名が書かれていないと分かりにくい突飛なものもあるので、

名前が入っているのは頷ける。

メーカー名は、パチモン作成会社への牽制と思われる。

しかし、この牽制があまり効果がなかったことは、

メーカー名刻印のみをけずりとったカニタンが存在することから、察することができる。

左が丸Cマークとメーカー名がないもので右が純正

第三弾のうんどうかい編に、もっとも多くの文字情報が入っていることは、

この時期に意匠権意識の向上や、消費者への情報提供の必要性から素材の明記等、

作る側の情報開示の意識の高まりがあったことがわかり、非常に興味深い。

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菓子のパッケージは、開封したら捨てられてしまい、残存しにくいものだが、

残っていれば大変多くの示唆を得ることができる。

ピコタンの発売開始時期はわかったが、何時まで売られていたのか、

どうぶつ編、うんどうかい編が何時の段階で追加されたのかは未だわかっていない。

今後の研究に期待したい。

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まぁ、わかったところで、何の役にもたたないんですけどね。

何やってンですかねぇ。40年以上前のモノを。

何時までやるんですかねぇ。この先も。

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