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やっぱりあったじゃん

明治製菓のメリーゴーランド

今では食玩といわれる分野が確立し、彩色された精巧なフィギアと小さなガム1個みたいな商品がいくらでもあるが、

昭和の時代は、オマケはあくまで菓子をより多く買ってもらうための、「オマケ」であった。

マンガやアニメの版権使用料が高くなると、子供相手で単価を上げられない菓子メーカーは、

キャラクターに頼らないオリジナルのオマケを作成することに智恵を絞った。

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沢山買ってもらうためには、沢山集めたくなるオマケであることが必要になる。

そこで、ただ集めるだけではなく、集めて繋げて遊んでもらうことで同じものをいくつも欲しくなるオマケが考えられた。

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その嚆矢となったのは、1974年に発売された明治製菓のピコタンであった。

Meiji SWEETS GUIDE No.12(1974年)

ピコタンは大人気を博し、菓子屋では品切れになるところも多かった。

当時、遠足のおやつに買おうと近所の菓子屋やスーパーをさがして廻ったが、

子供の足で行けるところの店には何所にも置いてなかった記憶がある。

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そんな子供に画期的な解決策を与えたのは、近所の駄菓子屋で売られていたパチモン駄玩具であった。

明治製菓のピコタンは50円で2個しか手に入らないが、パチモンは同じ50円で10数個を一遍に得ることが出来た。

当時の子供達は、パチモンであることを知りつつも、手当り次第に集めた様で、

某クションなどで見かける際は、純正と様々なパチモンがまとめて出品されることも多い。

様々なパチモンを含んだ落札品の例

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ピコタンの人気にあやかり、多くの駄玩具メーカーが様々なパチモンを作った。

その中で、この時期の明治製菓のオマケを模した駄玩具を積極的に作っていたのが、マルコー産業であった。

ピコタンのデザインを発展させて、腰部にボールジョイントを追加して2パーツにしたものを作成し、

意匠登録をしていたことが、当時の資料からわかっている。

意匠公報471097(クリックで別ウインドウで拡大)

上掲の書類の説明には、

「本物品は、上半身と下半身に分割され、上半身下部と下半身上部とにおいて連結し、

一定角度の範囲内で前後左右に連結部から屈曲し、単体でポーズを取らせて遊べるようになっていて、

上半身の頭部後面と胸部に設けられる孔と、下半身の上部背面に設けられる孔に、下半身足部の先端を嵌入し、

前後方向に連結でき、また上半身の両肩部と胸部両側に設けられる凹溝に上半身の両腕部先端を嵌入し、

左右側方にも連結して遊べるようになっている。」

と、腰部のジョイント以外のピコタンの基本的な連結部の意匠をひっくるめて申請している。

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マルコー産業製のパチモンピコタンは、パチモン顔ありC型と命名したタイプで、

純正ピコタンを緩く模倣したデザインか、ニコニコマークに似せたものや単純な表情がデザインされている。

胴体には3本の縦線がエンボスされている。

パチモン顔ありC型

このタイプのパチモンは、「人間ブロック」という名称で、

リンゴ型プラケース入りや、大台紙にタグ付き袋入りで売られていたことがわかっている。

胴体に三本の縦線が入ったデザインは、小型のタイプも見つかっている。

顔のデザインも酷似しており、パチモンC型に対して小型のものをC2型と称することにした。

パチモン顔ありC2型(左の小さいもの)とC型

この小型のタイプは、ガチャのカプセルに8〜9個入っているサンプルが見つかっている。

合体させて楽しむため数を増やしたいが、小さなカプセルに入れると言う制約があるガチャには、

小型化してなるべく数を増やす解決策として有効であったと思われる。

しかし、純正との互換性がなくなってしまい、

互換性を諦めてもピコタンのデザインを最大限に生かそうというデザイン方針が見て取れる。

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ピコタン型の人間ブロックのデザインを有効に利用した例としては、

台座に取り付けられた回転する歯車にピコタンを立てて回して遊ぶ「メリーゴーランド」がある。

プラスチックの台座にカラフルな歯車が9個連結されており、歯車には1個ずつの小さな穴が開いている。

ブリスターパックに同梱されたピコタンは、足の部分に突起のある特殊なタイプである。

顔のデザインは、C型と同じで胴体の3本の縦線も入っている。

5色が各2個の10個が入っている。

歯車の穴に、足の突起を差し込んで立て、歯車を回すと人形が踊るという趣向である。

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台紙には、「人形の立て方でおもしろくなります?」と書かれている。

「おもしろくなります!」と、断定するのではなく、「なります?」という疑問形にされているところが奥ゆかしい。

下部にある「いろいろ遊び方を工夫しましょう」の文字の横には、マルコー産業のロゴマークが印刷されている。

台紙右下のメーカーロゴ

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さすがマルコー産業。

何となく意匠登録できたピコタンのデザインを使い倒して新しい駄玩具を生み出してしまっている!

これはオリジナルを越えた画期的な新商品だ!!

・・・と、思ってましたよ。

十数年間。

が、ここが駄玩具研究の面白いところ。

なんと、このメリーゴーランドの元になったと思われるオマケらしきものが見つかったのである。

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某クションでジャンク価格で出品されていた。

連結できる台座と歯車、それに差し込む旗と、非常に小さいパーツが1個まとめて出された。

裏面には明治製菓の刻印が入っている。

表面には中央に歯車を差し込む突起があり、四方のジョイントでジグソーパズルのように繋げられるようになっている。

歯車は1個しか荷ュ衆で着なかったので、どのように廻るかはわからないが、

上面にも突起があり、垂直方向にも何か繋げられるパーツがあったのかもしれない。

上面には外側に3個、突起を挟んでさらに内側に2個の穴がある。

中央部の台座の突起には旗を、周囲の5ケ所の穴には飾りのパーツを差し込み、それが廻るのを楽しむもののようである。

台座と歯車が1組と、旗と飾りパーツがいくつかがセットになっていたと思われる。

飾りパーツは極端に小さく、すぐなくしてしまいそうである。

1個でも残ったことは由としなければならないのかもしれない。

屋根にサイレンかなにかを付けている車のようであり、他にも種類があったのかもしれない。

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ネットや書籍で調べてみたが、明治製菓にこのような回転するオマケがあったという記載は見られなかった。

ピコタンや明治合体チョコボールのような、明治製菓のオリジナル合体ものオマケなのだろうが、商品名もわからない。

スムーズに回転する歯車といい、小さいパーツの造形といい、加工は非常にしっかりしており、さすが純正品の品質を体現している。

それでも大ヒットにはならず、すぐに生産終了になって、ごく一部の子供達の失望を買ったものと思われる。

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子供の流行なんて、何がヒットするかわからないので、マルコー産業も一応アイデアをパクったパチ駄玩具を作ったのであろう。

細かな部品を作る手間を省き、ピコタンの型を流用して足の突起を追加して飾りパーツにしたものと思われる。

マルコー産業の「メリーゴーランド」と比較すると、今回見つかった明治製菓製のオマケの小ささ、加工の良さが良くわかる。

歯車のサイズが大きく違っているので、両者の互換性はない。

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今回見つかった歯車のオマケは、刻印から明治製菓のものとわかるが、商品名や販売時期は不明である。

折があれば明治製菓(現:明治)に聞いてみようと思うが、資料が残っている可能性は少ないと思われる。

なんたって、あっちは仕事で作ってるわけだから、40年も前の、あまりヒットしなかった商品のことなど残っていないだろう。

マルコー産業も、今さらそんな昔にパチモンを作ってたでしょう?!って言われても、困るだけだと思うし・・・。

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オリジナルメーカーもパチメーカーも忘れてしまったであろう類似性を指摘して、

「発見!発見!」と喜んでいる閑人は、他にはいないでしょうなぁ。

まぁ、そこが当サイトの特徴であり、ウリなんですけどね。

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今回の歯車オマケの入手にあたっては、名誉姉の称号を奉ったK様の手を煩わせた。

感謝に堪えない。

あ、今、某クションでたこちゅうが出品されてますから。

またよろしくお願いいたします。

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